8部分:第八章
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第八章
「阪神優勝しそうな時にスポーツ新聞持って来たよな」
「ああ、そういえばそうだったな」
その彼も周りの言葉に頷いて返す。
「あの時はな。阪神優勝しそうだったからな」
「あの時は残念だったけれどな」
「ヤクルト優勝したからな」
「本当にな」
「うちの学校阪神ファンばかりだからな」
先生のこの言葉は現在形だった。
「皆優勝しそうになったら騒ぐからな」
「あの時も駄目だったし」
「この前なんてな。十三ゲームも開いていて」
「あっさりと」
一同の口が尖っていく。口調も忌々しげなものに変わっていく。
「それで巨人にあっさりと」
「あれ何よ」
「全く」
「それでも。あの時はな」
オールバックの彼の目はその中でも温かいものだった。それは言葉にもそのままかかっておりその声で話していくのであった。
「いい思い出だよ」
「まあそうね」
「優勝する優勝するって皆で言って」
「結局しなかったけれど」
周りの皆もこう話していくのだった。
「今にして思えばな」
「いい思い出よ」
「本当にな」
「さて、それじゃあ今は」
ここでまた先生が皆に対して言ってきた。
「戻るか」
「戻るんですか」
「今は」
「教室にな。それからは」
話はそれで終わりではなかった。まだあるのだった。
「行くか」
「何処にですか?」
「それで今度は」
「皆大人になったんだ。何処か飲みに行かないか?」
こう誘ったのである。かつて生徒だった彼等をだ。
「皆でな」
「あっ、いいですね」
「じゃあ駅前の居酒屋でも」
皆もそれに乗る。そうしてであった。
先生はまた皆にだ。また言ってきた。
「ただな」
「ただ?」
「何かあるんですか?」
「ワリカンだぞ。皆に奢るとかは無理だからな」
「あはは、それはいいですよ」
「そんなことは言いませんから」
皆も笑ってこう返した。彼等もそれはわかっていた。
「先生にも辛いですよね」
「お金が」
「辛いよ、本当にね」
その通りだと答える先生だった。
「学校の先生の給料なんてたかが知れてるからね」
「ええ、じゃあワリカンで」
「そういうことで」
「行こうか」
また皆を誘う先生だった。
「教室に戻ってからな」
「はい、じゃあ」
「そうしましょう」
皆も先生の言葉に笑顔で頷いてそのうえで一旦校舎に戻る。そしてまた思い出の場所に戻るのだった。彼等全員の思い出の場所にだ。
懐かしい校舎 完
2010・4・12
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