Chapter 3. 『世界を変えた人』
Episode 19. The Advance of Black Cat (2)
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ておいて、明日ちゃんとお礼をしておかないと。
そのためには、まずこの夜の探索を無事に終了させることが重要だ。サチがディアベルさんに伝えたりしたら後で怒られる気もするけど、もうここまで来たら腹を括るしかない。とっとと目的のブツを回収して、全員無傷で戻るんだ。
再び意識を警戒十割に切り換えて歩みを進めようとしたその時、
「……あっ! アレだ!!」
ダッカーが突如大声を上げた。
彼の指差す方向に目を向けると、そこには木陰に隠れるようにして咲く、一輪の花が咲いていた。淡い桃色の花弁が月光を反射し、闇夜の中で篝火のような存在感を放っている。その幻想的な佇まいに、僕を含む全員がしばし見蕩れて動かなくなった。
「……これが、『ツキミシクラメン』?」
「きれいな花だなあ」
「ああ、間違いない! 情報で見たのと同じだ。よっしゃあ!! これでリーナさんのハートゲットは確実だぜ!」
立ち尽くす僕らとは対照的に、ハイテンションで頓狂なことを言いながらダッカーが花の元でと走り寄る。楚々と咲く小柄な花の手前でしゃがみ、ゆっくりと摘み取ろうと手を伸ばした――
「はい、ビンゴっと」
直後、妙に剽軽な、男の声が響いた。
同時に、木陰からずるりと伸びた刃によって、ダッカーの右手が斬り落とされる。
「……え?」
何の前触れも衝撃もなく彼の右手首から先が消失したことに、黒猫団全員が放心状態になった。思考が現実に追いつかない。木陰からおんぼろのマントを羽織った人影が現れても、その手に直剣の無機質な輝きが見えても、その硬直が消えることはない。襲撃を受けたダッカーさえ、まるで他人事のように目の前の現象を眺めている。
だが、その人物の上に光るオレンジのマーカーを見た瞬間、凍り付いていた僕の思考回路が動きだし、僕は棍を跳ね上げるようにして構えた。
「全員後退!! ダッカーを援護しつつ、ここから離脱するぞ!!」
僕の絶叫とも取れる指示に、他のメンバーもすぐに再起動した。手首から先を失ったダッカーも、もっと迫力のある部位欠損経験があったせいか、すぐに我に返って左手で短剣を構えた。テツオが盾を構えて前に出て、ササマルが僕の後ろに控える。この三日間で死ぬ気で身に付けた、僕らの基本陣形だ。
「ふーむ、ただの喧しいガキ連中と思って見てたが、存外胆力はありそうだ。不意打ちを受けても即座に体勢を立て直してくるか」
ゴツイ指先で顎の辺りをこすりながら、人影はゆっくりと歩み出て来てマントのフードを取った。月明かりに照らされて、その男の素顔が見えた。
年の頃は三十代後半くらいか。潰れた鼻や飛び出た眼、岩肌を連想させるほどに荒れた肌は、昔何かの映画で見た山男を思い出させた。最も、目の前の男の瞳にはそんな純朴さ
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