8.提督が怒った理由
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いるため、提督の目が見えず、いまいちどんな表情をしているのか分からない。
「……説教は終わりだ。各自傷の酷い順に入渠して傷を癒やしてこい。全員に高速修復剤の使用を許可する」
「ここまで俺をなじっといてまだコケにする気か……」
「提督として命令する。第二艦隊はこれより、高速修復剤を使用して順次傷を癒やせ。復唱しろ木曾」
「……了解した。第二艦隊はこれより、高速修復剤を利用して順次傷を癒やす。クソッ……」
木曾は赤城に肩を借りた状態で執務室を出た。身体的なダメージもあるが、恐らく木曾は、提督のために無理をしてまで手に入れた勝利を根本から否定されたことが、よほどのショックだったのだろう。
そしてそれ以上に、私はおろか、執務室にいた全員が、本気で怒った提督を初めて見たことにショックを感じていた。以前ティータイムで提督が怒ったと勘違いしたことがあった。あの時も恐怖を感じたが、今日のそれはその時の比ではなかった。死線を何度もくぐり抜けてきたはずの私達が、ただの人間であるはずの彼に対し、心から恐怖を感じた。伊勢と赤城は絶句し、鳳翔も険しい顔をしていた。榛名と夕立も顔が青ざめていた。傍から見ていただけの私ですら恐怖で体が震えた。実際の当事者だった木曾が感じた恐怖がいかに凄まじい物だったであろうことは、想像に難しくない。
第二艦隊の全員が部屋から出て行った後、提督は帽子を脱ぎ、深い溜息をついた。その声にはもう怒気はなかった。
「ふぅー……」
「テートク…ワタシまで怖かったデース…」
「んー…すまん。でもこういうことはしっかり言わにゃいかんと思ってね。金剛も“叱るときはちゃんと叱れ”って言ってたじゃん」
「物事には限度ってものがありマスヨ、テートク……」
「はは……」
提督は私の方を見て苦笑いしながら頭を掻いた。よかった。いつもの穏やかな提督だ。ここでやっと私は安心出来た。体中に安堵が広がっていくのを感じた。
「でもテートク…木曾は作戦を成功させたんだし、あそこまで叱らなくてもよかったと思いマース」
「いやな、作戦を成功させたのはよくやったとおれも思うんだ。でも命令拒否は話が別だ」
「確かに海軍だから命令を拒否するのはマズいデスけど…」
「それとはまた話が別でさ……みんなの損害がおれの命令の結果だったらまだいいんだ。“提督の命令のせいだ”って言い訳出来るだろ?」
「この鎮守府にそんな風にテートクを思う子なんていないヨー?」
「いや気持ちの問題だよ。仮に誰かが轟沈しても、おれを言い訳にすれば逃げ道出来るだろ? もちろん轟沈を出すつもりはない。そんなつもりは一切ないけど、万が一ってことが世の中にはある。そんな時、その原因がおれの命令だったら、自分を責めるよりおれを恨む方が楽だろ?」
提督が言いたいこと
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