第3章 黄昏のノクターン 2022/12
28話 水都の陰
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「………チッ」
ヒートアップしたリゼルの精神状態もニオによって一気に平常値まで回復し、再び静かな船旅へと戻る。しかし、気分的な部分で言えば、少し淀んでしまったかもしれない。
「とりあえずだ。住処は一緒に探してやるから、早く商業区画に行こう」
そして、この場で出来ることなど俺にはなく、話を挿げ替える程度しかなかった。
………結果、商業区画までの移動だけでも六回の罵声を受け、そのどれもが挑発的な操舵の目立つものだった。木箱を積んでいたようにも見受けられたが、斯くも荒い櫂捌きで荷が崩れるようなことを気にしなかったのは彼等の技術の高さ故か、それとも単純に大雑把なだけか。いづれにせよ、良い気分ではないのは確かだ。
「ゴンドラに乗っていたということは、水運ギルドの方ですよね?」
「だろうな。しかし、態度の変化が露骨だ。嫌われるようなことした覚えもないし」
水運ギルド、浮上したその単語を基に関連する記憶を洗い出す。
街に辿り着き、ゴンドラの船頭が話していた情報。苦々しげに、ロモロが話していた情報。思いのほか情報量が少なく、推論さえままならないので、如何に筋道を組もうと試みても、まるで彼等の豹変の原因には行き当たらない。この件は一旦保留としよう。
そのまま顎に手を当てて悩むティルネルに相槌を打ちながら、俺達の拠点からクーネ達を先導して歩くこと五分。ロモロ邸に向かう際にゴンドラで通り過ぎた市場、色とりどりの幌屋根の露店やレンガ造りの競り場を一望できる場所にある、彼女達に紹介する物件に辿り着く。三人部屋で少し手狭になるかも知れないが、風呂付き、リビングあり、キッチンあり、各種NPCショップも徒歩十分圏内にある最優良物件だ。川沿いだからすぐ近くにゴンドラも停められるメリットもある。
「ここで大丈夫か?」
「うん、とても良い部屋だわ。ありがとね」
お気に召したならば結構。ランプの灯された夜の市場は、正式サービスが開始されてからは当然の事ながら俺も初見なのだが、なかなかに幻想的で見応えがある。デスゲームでなければもっと心躍る光景ではあるのだが、それでも、美観は色褪せては見えないものである。テーブルで向かい合うクーネを除く女性は全員が窓辺に群がっている。
「それで、リン君にはもう一つだけお願いがあるんだけど、聞いて貰いたいの。いいかな?」
「まあ、聞くだけならタダだ」
「この層にいる間だけ、私達と一緒に行動して、出来ればボス攻略まで一緒に居てもらいたいのよ」
「………ボス攻略か」
第一層以来の大仕事のオファーに、思わず目頭に指を当てて黙考する。俺の頼みを素直に聞き入れて、ボス攻略に参加してくれようとするクーネ達には感謝するほかないが、
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