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月下に咲く薔薇
月下に咲く薔薇 24.
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物の反応。
 クロウ自身の警戒心。
 或いは、『揺れる天秤』が起こす拒絶なのか。何とも判然としない。
 ただ、意識と肉体の接点から不快なものが頭を擡げ、本能や感情を盛んに軋ませる。
 発しているのは、「入って来るな!」という追い詰められた者の悲鳴だ。
『アリエティスを受け入れながら、体内の異物を出したいと強く望みなさい。意志の力無くして、取り出せるものではありませんよ』
 元々高圧的な男が、丁寧な物言いでクロウを脅しにかかる。
「アリエティスを受け入れるだ? 簡単に言うな。それに、さっきからやたらゾワゾワして鳥肌が立つ!」
『それでも逆らいきれるものではないでしょう。この空間では、あなたの力が一番弱いのです。アリエティスか異物、どちらに傾くか、自分で選びなさい』と言いつつも、前者を選べとアイムが愛機の名をより強調する。『さぁ、クロウ・ブルースト。選んだ証として、私かアリエティスの名を呼ぶのです』
 クロウの心身は『揺れる天秤』の影響下にある為。
 理由はそんなところだと思うが、何しろストーカーの言い分だ。神経を逆撫でする言葉が飛び出した途端、またも発芽の様子を想像してしまった。
 白目を剥いた全裸のクロウを苗床にして、全身に絡みついた茎に蕾がつく。一斉に開花するその花々は、吸い取った血のように赤く美しい。
 昨日以来縁のある見事なバラのようにも見えるが、クロウには花の違いをはっきりと見分ける事ができた。
 体から生える植物は、クロウに進入して『揺れる天秤』に触れ支配者としてその上位に立とうとする『偽りの黒羊』、アリエティス、そしてアイムの比喩的表現だ。
 来るな!
 おぞけと怒りが全身で沸騰した瞬間。
 突如、赤い世界に濃緑色の浸食が起こった。
 棘と枝葉のついたよく曲がる紐状の物体が、クロウから爆発的な勢いで溢れ出す。
 ある一点、クロウの右眼球の極近いところから。
 出現と共にその紐は拡大コピーよろしく茎の幅、枝葉の大きさを増してゆく。
 右の視界は、植物の出現と巨大化、生長のみで占められていた。
 伸びる。まだ伸びる。
 しかも、その生長は飛矢の速さにも等しい。
 植物のしなりがちらつきとなって、急速に右の眼球を疲労させる。
「ち、ちょっ…!! やめろ!! どういう仕掛けだ!?」
 慌てて右目を瞑り両手で上から押さえつけたが、全く効果はなかった。バラの茎は二重に重ねた掌の上から、尚も上下左右と放射状に広がってゆこうとする。
 今は、左の手の甲から出現して見える有様だ。
 眼球そのものから植物が現れているのとは違う。しかし、出現点と眼球は無関係でもない。
 その証拠に、顔の向きを変えると植物の出現場所もついてきた。瞼を覆っている掌を貫通し、茎の束が引き続き空中へ空中へと貪欲な進出を図る。
『こ…こ
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