九話:雪
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温もりを知らなければ孤独であっても絶えることはできるだろう。
しかし、一度でもその温かさに触れてしまえばもう戻れない。
例え戻れるとしてもそれには想像を絶する恐怖に打ち勝たねばならない。
寂しいという感情が感じられぬほどに寂しくなるには時間がかかりすぎる。
今の衛宮切嗣には耐えきることができないほどの時間が。
「あの言葉はお前自身が誰かに傍にいて欲しいと思っているからこその言葉ではないのか」
「……全くの誤解だよ。僕は誰も近くにいて欲しいなんて思っていない。そもそも、僕の傍にいる人間はみんな不幸になるんだ。相手の方が願い下げだろう」
若干、苛立ちが混じったような声で告げる切嗣。
実際のところ、自分の傍に誰かを居させたくないというのは本心であった。
それは親しくなっても必ず切り捨てなければならない時が訪れるが故。
もう、これ以上親しい人間を殺したくないという弱弱しい願い。
どこまでも消極的で後ろめたさしか残っていない考え。
それが今の切嗣の心の在り方であった。
「さあ、余り外に居過ぎると風邪をひく。そろそろ戻るよ」
優しくではあるが、明らかに拒絶の意思をもってリインフォースの手を退け、背を向ける切嗣。
リインフォースは悲し気に掴むものを失った手を伸ばすが何もかも既に遠すぎる。
かつて、この世全ての悪を背負うと言った背中は、今はあまりにも小さく、悲しげだった。
「切嗣、お前は……」
そっと伸ばしていた手を自身の胸元に添えるリインフォース。
そこには先ほどまであったはずの温かさが無くなっており、小さな痛みだけが残っていた。
彼女は美しく輝く赤い瞳を曇らせ、憂いのある声を零す。
「この感情は一体何なんだろうな……胸が痛い」
彼女の声に答えは返ってこない。今はもう切嗣の姿も小さくなりかけている。
彼を追う為に歩き始めたところで降り始めた雪が彼女の頬に当たる。
その感触に、その温度に今度は悲し気な表情をする。
「……冷たいな」
最後にそう一言呟き、リインフォースは切嗣のコートを体に密着させて歩き出すのだった。
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