九話:雪
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想にそれが妥当なところかと手を打ち、パネルに目を戻す。
しかし、後ろで切嗣がバカバカしいとばかりに鼻を鳴らしたことで振り返る。
何も苛立ったからではない。寧ろ面白そうに、興味が湧いたと心の底から異形の笑みを浮かべながら。
「おや、不満そうだね。では、君の考えはどうなのか聞かせてもらえないかい?」
「……旅をする魔導書。だが、所詮は魔導書だ。一人で旅をすることなどできない。それに幾ら蒐集してもそれを研究する人間が居なければ意味がない」
「では、自己研究を行えるようにしたのが彼女だというのかい?」
「違う」
短く、吐き捨てるように否定しリインフォースの方を見る切嗣。
彼女の方は何があるのかと少し不思議そうな顔で彼を見ている。
こんな表情をできる彼女が道具として作られたわけがないと彼は確信している。
そもそも、心という器がなければ感情は宿らない。零れて消えていくだけだ。
機械には心という器がない。だが、彼女達にはその器がつけられていた。それは何故か。
「旅をする人間、主の為の存在だ。人間にとっての恐怖は飢え、寒さ、外敵などがあるが、仮に一人で旅をする時に最も恐ろしいことは孤独だ。それを無くす為の機能だ」
「つまり、どういうことだい?」
一旦、口を閉じ、想いを込めるように。
内に持った気持ちを吐き出すように切嗣は声を絞り出す。
「彼女達は夜天の主の―――家族になるために生み出されたんだ」
彼女達の本来の役目は主の家族となること。
そう言い切った切嗣にリインフォースは目を見開き、見つめる。
誰もが切嗣を見つめ言葉を発することができない。
しかし、こういった沈黙を破るのはやはり狂った人間だと相場が決まっている。
「くくく! あはははは!! 素晴らしい! 実に素晴らしいッ!!」
「……ちっ」
「ああ、盲点だったよ。私自身が愛すべき娘達を、家族を創りだしている身だというのに。これが灯台下暗しというやつかね」
まるで素晴らしい劇を見終わった後のように拍手を送りながらスカリエッティは嗤う。
誰よりも、楽しそうに。誰よりも、狂ったように。異形の笑みを浮かべ続ける。
それに対して、また始まったかと舌打ちをする切嗣。
だが、この場で凶器の科学者を止められるものは存在しない。
「納得だ。初めから機械ではなく家族として作り出したのだから心を持っていなければ意味がない。自分と同じ人の体をしていなければ意味がない。共に泣き、共に笑いあえる家族が欲しかったのならば無意味な設計も合理的な設計となる」
まるで難題が解けた子供のように喜びをあらわにするスカリエッティにウーノは満足げな顔をする。
リインフォースは未だに驚きが抜けきらない顔で切嗣を見つめている。
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