気付く不和の芽、気付かぬ不調
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ら……人間の欲望と忠義。劉備の理想を知っているからこそ、奴はその裏を突いてくる。
自分でも考え得る掻き乱し方。人心操作は思いついても、それを実行に移せるかと言われれば冥琳には否。
人の心を動かすには言の葉に説得力を持たせなければならない。論じるだけでは動かせない。それがあの男には出来ると、冥琳は確信していた。
「故に、孫呉も危うい。蓮華様が荊州を治めきれるか否かに大きな部分が委ねられる。私や雪蓮の庇護なく、孫権という王個人としての力量が今後の全てを左右してくる。
私が懸念したのは黒麒麟の齎す不和の芽だ。蓮華様の成長を助ける為にも、小蓮様の遠征に賛同し、蓮華様が敷く人の和の絆の力を信じた。蓮華様なら黒麒麟の民心操作をも越えられると私は踏んでいるが、どうだ?」
不安はあるが、迷いはない。
次世代を担う王才は日々成長している。雪蓮とは違う蓮華だけの力に期待し、任せる為に冥琳は今回のことを是としたのだった。
嬉しそうに、雪蓮は酒を飲みほした。祭も同様に喉を鳴らして杯を空ける。
「言われずとも信じているわい。誰にモノをいっておる。この孫呉の宿将から見ても蓮華様の王才は確かじゃ。黒麒麟などに負けることはなかろうて」
「姉としても、孫策としてもそれには同意ね。私じゃ荊州を治めることは多分無理、でも蓮華なら……きっと出来る」
二人共、大きくなり始めた蓮華を信じている。ふっと笑った冥琳の表情は影もなく、優しく穏やかな微笑みであった。
再び満たした杯を、かちり、と三人は合わせてから、一息に飲み干した。
「じゃあ私達は私達の役割を果たしましょう。数日後に来る使者との応対を始めとして……全ては孫呉の繁栄の為に」
雪蓮の声には、御意、と二つの声が応えた。
酒宴の夜は更けていく。孫呉の古参である三人の英雄は、後を継ぐ者達への道を少しでも広げようと心を高めた。
一人、孫呉最高の頭脳だけはより高く。
――まだ死ねん。まだやることが沢山ある。まだ、まだ……せめて覇王と黒麒麟を打ち滅ぼすまでは。
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