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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第四三話 帰想
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「師匠に呼び出されたあの夜、俺は師匠に殺されてもいいと思っていたんだ。いや、殺されるべきだって。」
「………」

 握りしめた拳、震える背を向けた彼が独白する。

「でもそれじゃ、俺を助けるために死んだゆいの死が無駄になってしまう。―――そう思った瞬間、俺は師匠を手に掛けていた。」


 今まで何度もその死を振り返ったのだろう落ち着いた様子で淡々と告げる。きっとそれが今の彼へとたどり着く最後の後押しになったのだろう。


「師匠はきっと……俺の背を押すためにあんなことをしたんだと思う。」

 手に掛けたかったわけではない。だが真剣勝負の結果だ、そこに罪悪感を持つのは剣客の敗者として耐え難い屈辱だろう。
 彼は師を尊敬しているからこそ、そこに罪悪感を持たないのだ。

 師に勝ったことを誇りとし、師から最期に教わったものを信念とし、かつての許嫁の生き様を支えに彼は頑張ってきた。
 本当は投げ捨てたかっただろう、だけど他人の死を悼み、尊ぶ事が出来る彼にはそんな真似は到底できなかった。

「……きっとそうですね。」

 彼の師の思惑は知れない。愛娘の死を無駄にしない為か、愛弟子が満足のゆく最期を迎えることが出来るようにとする最後の指導のためか。
 其れとも単に私怨か……その思惑は露としれない。

 だけど、しかし。
 自身の命を代償としても、愛娘の意をくみ、愛弟子の背を押したのだとすれば―――同じ悲劇だとしても、次への可能性という救いが残る。
 だからこそ、彼は今日まで死中の活を必死につかみ取ってこれたのだろう。生か死かの二択を迫られた時、彼には迷う余地がなかったから。

「……まぁ、こんなところだ。無様を見せたな、幻滅したか?」
「とんでもありません、忠亮さんのことを知れてよかったと思います。」

 切り替えたのか、すっかり普段に戻った忠亮。
 この切り替えの早さは流石というかなんというか―――妙に毒気を抜かれる時がある。

「そうか、正直言えば話すのに臆していたのだが……俺も今は言ってよかったと思っている。これからは、お前を素直に見ることが出来るからな。」
「きゅ、急にそんな事言わないでください!!……恥ずかしくなっちゃいます。」

 穏やかな眼差しと共に放たれた言葉に頬が熱くなる。視線から逃げるように顔を手で覆い背を向ける
 視界が閉ざされる、その時だった。

「唯依……」

 行き成り後ろから抱きしめられる。片腕だというのに力強い、だけど優しい抱擁。――身動きが取れない。

(おれ)はな、無常こそを愛している。一瞬、一瞬が常に変わり続けて同じ一瞬が一つもないという事が好きなんだ。
 同じ物が一つもないという事は、それが尊いって事なんだ。本当に大切なものは代わりが効か
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