巻ノ二十五 小田原城その十
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「特に江戸の辺りを」
「江戸、ですか」
「左様です」
こう言うのだった。
「行かれては」
「江戸というと」
「あそこは確か」
「城があるにしても」
「それでも」
家臣達は僧侶の言葉に首を傾げさせつつ話した。
「その城も古く」
「しかも武蔵野のど真ん中」
「河越の辺りは城があっても」
「あの場所は」
「ははは、今はそうですが」
僧侶は笑ってだ、いぶかしむ十人にも話した。
「しかしです」
「一見の価値がある」
「そうした場所だとですか」
「御坊は言われますか」
「拙僧実は武蔵の生まれでして」
僧侶はこのこともだ、一行に話した。
「武蔵、いえ関東一円を歩いて回ってきていまして」
「その江戸もですか」
「何度か行っていて知っております」
このことから話すのだった。
「それで申し上げるのです」
「左様でしたか」
「はい、それで」
その江戸はというのだ。
「是非行かれるといいです」
「そうなのですか」
「必ず何かがおわかりになられるでしょう」
幸村のその目を見つつの言葉だった。
「貴殿ならば」
「拙者なら」
「必ずです」
「では」
「江戸に行かれますか」
「はい」
確かな声でだ、幸村は僧侶に答えた。
「ではそうさせてもらいます」
「さすれば」
「しかし」
「しかしとは」
「御坊は何故拙者にそうしたことを教えてくれたのでしょうか」
幸村jは僧侶、髭まで奇麗に剃られ顔には深い皺が多くあるがそれが深い叡智と穏健さも見せるその顔を見つつ尋ねた。
「擦れ違っただけの拙者に」
「貴殿の相を見まして」
「拙者の」
「はい、貴殿の顔相を見ましたが」
幸村の顔に出ているもの、それを見てというのだ。
「非常によい相です、必ず天下で大きなことを為されます」
「だからですか」
「そのご見識を広めてもらいたいと思いまして」
「それ故に」
「お話した次第です」
「そうでしたか」
「ですから」
また行った僧侶だった。
「是非江戸に」
「ではあちらにも行って参ります」
「是非、それとですが」
「それと、とは」
「この関東は広く今一つ地味はよくありませぬ」
「その様ですな、この相模はよいですが」
幸村も僧侶に応えて言う。
「その武蔵の辺りは平地が多くとも水の質がよくなく」
「はい、米もいいものは採れませぬ」
「上野の辺りもそうだとか」
「しかも風が強いです」
「冬は堪えそうですな」
「しかしその平地の広さとです」
それに加えて、とだ。僧侶は話した。
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