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冬虫夏花
10部分:第十章

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第十章

「ババシャツもカイロも毛糸のパンツもなしよ」
「スパッツもないわね」
「それじゃあ本当に」
「そう、これだけよ」
 そうだというのであった。まさにそれだけであったのである。
 皆これを見てあらためて驚いた。昨日までの重装備ではないからである。
 それでついつい。こんなことを言うのだった。
「奇跡が起こったっていうか」
「天変地異!?」
「今日はかなり冷え込んでるのに」
「わかったのよ。あまり寒いって思うとかえって寒くなるってね」
 彼女はこう話した。
「これだけでいけるってわかったの」
「あっ、そういえばあんた昨日」
「三原とカラオケボックス行ったわよね」
「そうよね」
「ええ、そうよ」
 このことにもにこりと笑って話した。
「それからわかったのよ」
「そうだったの。っていうと」
「あいつに何か言われたのね」
「一体何がなのよ」
「簡単に言うと北風と太陽よ」
 童話である。それだというのだ。
「それでなのよ」
「ということはあんたは」
「その重装備を脱がせられたのね」
「それもなの」
 彼女達もそのことがわかった。そしてそれだけではなかった。
 そこから先のこともだ。すぐに察したのであった。
「夏みたいになったのね」
「しかも一糸まとわぬ」
「ま、まあそれはね」
 こう言われると焦った顔になった。図星である何よりの証拠であった。
「何だかんだでね」
「やれやれ。けれどよかったじゃない」
「寒くないってことがわかっておまけに彼氏までできて」
「万々歳ね」
 そして皆そんな彼女に対してまた告げた。
「これであんたは冬でもね」
「その魅力出せるようになったし」
「よかったよかった」
「それじゃあ今日は」
 夏のその顔での言葉だ。
「街行かない?ショッピングで」
「あら、今日は寒いわよ」
「それでもいいのね」
「ええ、もう寒くないからね」
 真紀は皆の悪戯っぽい言葉ににこりと笑って返した。
「だからいいのよ」
「言ったわね、それじゃあ」
「行くわよ、ショッピングね」
 こんな話を笑顔でする真紀だった。もう彼女は寒さは感じなくなっていた。もう夏の時と完全に同じ顔になっている彼女であった。


冬虫夏花   完


                 2009・12・26

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