第3章 黄昏のノクターン 2022/12
27話 再起の証
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?」
「選べるんだろうな」
念願の自家用船の入手にまで漕ぎつけた相棒とテイムモンスターは、しかし喜び過ぎて収拾がついていない。完全にパニック状態である。強敵を撃破しての報酬という意味では俺自身も感慨深さを覚えるが、彼女達の抱く感情は完全に別のベクトルなのだろう。横ではクーネ達が更に苛烈な勢いで船の仕様を設定しているが、見る限り盛り上がりと進行速度は反比例しているようだ。俺には理解できない領域が、そこにはあった。
「色はどれがいいと思う?」
傍に寄ったヒヨリがRGBサークルを指で差して見せてくる。俺の意見も参考にしてくれるというのか。嬉しい心遣いだが、しかし意見を決めるという意味では、この場面において言うならば俺も女性陣に負けず劣らず不向きなのである。
「さあ、俺は美術の成績悪かったからな………」
「………あ、うん」
完全委任の俺の意見にヒヨリが言及してこなかったのは、付き合いの長さからくる経験に他ならない。普段であればもう少ししつこく食い下がるヒヨリさえ押し黙ることが何よりの証左だ。それほどの美術感覚のなさこそ、俺の汚点。《画伯》と呼ばれた男の所以だ。しかし、利便性という観点で思うところはあるので一言だけ伝えておこう。
「………もし、船がストレージに収まらないような代物だったら、どこかに係留しておかなきゃいけないだろう。この街は同じような船ばっかりだから、夜でも目に付きやすい色の方が良いかも知れないな」
「そうだね! 他のお船と混ざっちゃって分からなくなったら大変だもんね!」
そうなったら有り余る素材で作り直せば良いのだが、この事は敢えて口に出さないでおこう。
その後、色彩設定を皮切りに装飾や座席の位置に至るまでをヒヨリとティルネルに任せた船の仕様設定を終わらせると、西に傾いた太陽が水面に光を注ぎ、東の空の縁がじわじわと深い青に色を移ろわせる時分となる。
ロモロ邸を後にした俺達は、クエストの打ち上げも兼ねて同じ区画の食堂で遅めの昼食を取ることとした。大衆食堂の風情ある六人掛けテーブルを縦長に繋げた簡易パーティーテーブルには、予算に糸目を付けないとばかりに大皿の料理が盛られている。クーネ達の方針は、戦闘時以外は極めて緩めらしい。
それにしても、涸れ谷時代の看板メニューだった《異様に固い干し肉》や《赤黒縞多脚トカゲの黒焼き》や《有料のお冷》を記憶している身としては、魚介類メインのオシャレなイタリアンだらけの御品書きに思わず目を奪われてしまうものだ。おかしな言い方ではあるが、第四層に食用に適した飲食物が販売されているというだけで感動してしまう。
「リン君、こんなお店知ってるなんてちょっと意外かも」
「水路沿いのお店って雰囲気あっていいよねー!
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