Chapter 1. 『ゲームの中に入ってみたいと思ったことは?』
Episode 2. Spider, Spinner, Sniper
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さの更地の向こうに濁った水面が見える。陰気な雰囲気なのは変わらないが、ここだけぽっかりと木がなくなっていて日が差し込んでいる分だけマシだ。
ひとまずぐるりと見渡してみたが、ここから先に抜けられそうな道はない。多分、ここがこの道の終着点だろ。ってことは、この辺のどっかにボスがいるはずなんだが……、
「……別になんも出てこねえな。これで道一本違いましたー、とかいうオチだったら、もう二度とこんなとこ来ねえ……ん?」
抜き身の片手剣を担いで更地の真ん中あたりに来た時、俺は沼の水辺に座る人影に気づいた。どうも若い女らしいが、見回した時には目に入らなかった。地面の色に似たこげ茶色の長い丈のワンピースみたいなのを着ている所為か、それとも、その小柄で華奢な体躯の所為なのか。
腰まであるような長い黒髪が顔どころか手元まで覆い隠してるせいで、何をしているのかはよくわからない。時々手元が微かに動いてるあたり、沼の水で洗い物でもしてんのか。
このゲームで「洗濯」をプレイヤーがすることはない。っつうことは、コイツはNPCってことになる。目立った武器防具の一つもなくこんな森の奥にいる時点で、プレイヤーの可能性はまずないんだろうが。
ボスが出てこなくてこのNPCがいる以上、コイツが俺のクエスト遂行に関係している確率は高い。顔も見えない奴に話しかけるのなんてイヤだが、そうしないと始まらないんじゃ仕方ない。一応警戒しながら一歩、二歩と踏み出した時、
「…………ねえ」
蚊の鳴くような、か細い女の声がした。本当に細く小さな声で一瞬空耳かと思ったが、女の手元の動きが止まっているのを見て、俺への呼びかけの声だと分かった。
「…………どうしても、決められないの」
女が顔を上げた。妙にのっぺりした無表情が、陶磁器のように白い顔面に張り付いていた。豆粒のように小さい瞳がこちらを見ていたが、どこか焦点が合っていないように見受けられる、ボーッとした視線だった。
「…………ねえ、貴方はどっちがいいと思う?」
目をこっちにやったまま、女の手がゆっくりと動きだす。手元にあったのは、昔どっかの博物館でみたような糸車だった。清々しいくらいに綺麗なライトブラウンの色合いが、ひどく場違いな空気を醸し出している。枯れ木のように細い手が、静かに、静かに、糸車を回す。どこからか伸びた細い糸が、少しずつ巻きついていくのが見えた。
「…………糸にするなら、どっちの方がいい?」
女の手が止まった。イヤな予感がして、担いでいた剣を構える。
女は糸車のハンドルを手放し、その手でなにかを掴み、そしてぐいっと持ち上げた。
「筋肉と髪の毛、糸にするならどぉっっっっちがいいいいいいいいいいぃぃぃいい???」
その手にあったのは、ズタズタ
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