序章〜狂いだす歯車〜
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3月25日
〜side 由夢〜
病室から桜姫ちゃんが出てきた。
病室の中にはお姉ちゃんと兄さんが残っている。おそらく最期の会話をしているのだろう。
桜姫ちゃんもそれがわかっているのか、ただただ涙を流し声もなくさくらさんに抱き着いている。大人びてはいても、まだ小学校を卒業したばかりだ。
しばらくたって兄さんが出てきた。もうお姉ちゃんは…
「由夢、音姉が呼んでる」
「私ですか?」
ちらりと桜姫ちゃんを見ると泣きつかれてしまったのかそのまま寝てしまっていた。
「由夢ちゃん、行ってあげて」
視線に気が付いたのかさくらさんが私を促してきた。桜姫ちゃんは任せていて大丈夫だろうけれど…
「兄さん、兄さんはいいんですか?」
もう、とつけてなかったのは私も土壇場で認めたくなかったからだ。
「いくら話しても尽きないし、音姉からの…最期の頼みだからな。俺は大丈夫だから行ってあげてくれ」
「…わかった」
兄さんはちっとも大丈夫そうじゃない顔を微笑もうとゆがめて私にそういった。きっと泣きたいだろうに。私がいたら、桜姫ちゃんやさくらさんがいたら泣けないだろうから。
もう残された面会時間もわずかなのに、なんでお姉ちゃんは私を呼んだんだろうか。そう思いながら私は病室に入っていった。
「由夢ちゃん、ありがとう。ごめんね、もうちょっと体を起こせないからこのままでいい?」
刻一刻とお姉ちゃんに残された時間が減っているのがわかる。痛くてつらいだろうに、そう言ってお姉ちゃんは気丈に私に微笑んだ。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。それに耐えなくていいんだよ、泣きたいのなら泣かなきゃ」
「同じことそっくり返すよ、由夢ちゃん。それなのにごめんね、弟くんと桜姫ちゃんを頼むね」
「わかってるよ。大丈夫お姉ちゃんの代わりにはなれないけど、頑張って支えていくから。お姉ちゃんも心配しないで」
これが最期の会話になると思うと涙があふれそうになるけど、最期は笑って送り出すと決めていた。この瞬間を夢で見たときから。桜姫ちゃんと兄さんがふさぎ込んでいる間も支えるために、覚悟は決めていたんだから。
「伝えたいことはまだあるけれど、もう時間もないの、だからね由夢ちゃんこれを預かってくれる?」
「手紙…?」
「そう手紙。1年位経ったその時にあけてくれる?」
「わかった」
意図はわからないけれど、それでも私は受け取った。そしてそれを見計らうかの如く面会の時間が終わったことを告げるアラームが鳴った。
そして私は、お姉ちゃんに別れを告げた。最後の別れを。
その手紙に何が書かれているかも知らずに。
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