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ウラギリモノの英雄譚
シュウアク――英雄譚ノ始マリ
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不尽でも跳ね除けられる絶対的な暴力が、要の手の中にあった。

「助けられる……」
 その言葉は何よりも甘美な響きを持っていた。
 麻薬の様に脳に浸透(しんとう)していく高揚感に、要は拳を振るって全身を始めた。
 彼女がどんなに強力な怪人に成長したとしても、要が止める。
 要が止めてみせる。
 その力があることを示すように、要は拳を振るった。
 瞬く間に要は崩れた駅ビルの上。触手の中心にたどり着いた。
 更に伸びてこようとする触手を引き抜き、引き千切り。
「莉子さん――」
 彼女の名前を呼んだ。
「莉子さん――莉子さん――莉子さん――」
 彼女に拳を振るう度に、何回も呼んだ。
 触手から溢れ出す体液で、要はドロドロに汚れていく。
 二人は満足するまで戦う。彼女の恐怖が消えるまで、要は拳を振り下ろすのをやめられない。
 渾身の力を込めて、拳を引いた。

「僕は、こんなに強いんですよ」
 だから、大丈夫。
 何も心配することはない。
 そう、彼女に伝えたくて、引いた拳を力の限り振り下ろした。
 彼女の触手が消し飛ぶ。
 中から、無機質(むきしつ)な仮面が現れた。
 この下に、莉子がいる。
 要はその仮面を剥ぎとった。
 仮面の下には莉子の微笑みがあった。

「見えるようになったんだ……」
「聞こえるようにもなりました。克服(こくふく)できました」
「良かったね、要くん」
 莉子の姿を見て、要は安心した。
 彼女を救えたと思った。
「じゃあ、約束通り、君をヒーローにしてあげるね……今」
 相変わらず莉子は微笑んでいる。
 彼女の言葉の意味は分からない。

「この服、気に入ってるんだ……死ぬ時は絶対これを着てようと思った……」
 何故彼女は、そんな話をするのだろうか?
 要は強くなったのだ。
 もう彼女は、死ななくて良いはずだった。

「ごめんね……。実はもう……限界なんよ……」
 莉子の呼吸が少しだけ苦しそうに歪んだ。

「これ以上、正気を保つのは、無理みたい……」
「何……言ってるんですか……?」
「わたし……もうすぐ心まで怪人になってしまいそうなんよ……」
 苦しげな莉子の表情。
 要には意味がわからない。
 分かりたくなかった。

「じゃあ、要くん……わたしのこと、殺してくれるかな?」
 そして莉子は、
「バイバイ」
 短くそう告げて。
 要の視界を無数の触手が(おお)った。

 触手に包まれた要の全身は、グシャグシャに(ひね)り潰されそうになりながら、触手の外に排出(はいしゅつ)された。
 全身が痛む。だが、それも数秒で治癒する。

「何だ……これ……?」
 目の前に、強大な暴力の群れが。
 先程とは比べ物にならないほどの触手の群
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