シュウアク――英雄譚ノ始マリ
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論、五感を失った状態で、こんな奴らの動きを想像して戦うことなんて、出来るとは思えなかった。
「これは……無理だ……」
思わずそう呟いた瞬間、要の目の前に一本の触手が差し迫った。
「――っ」
その触手は要に直撃した。
要は咄嗟に『変身』して身を守った。
瞬く間に五感は失われ、また真っ暗な世界に幼い自分と二人っきりにされる。
世界を見なきゃいけなかった。
現実を感じなければいけなかった。
耳を塞いで、目をきつく閉じ、膝を抱えている幼い要が顔を上げた。
こんなことは初めてだった。
「戦いたいの……?」
幼い自分が問いかけてくる。
「戦ったって、いいことなんて何もないよ」
例えそうだとしても、戦わなければいけなかった。
今戦えないと、きっと要は後悔をする。
今、彼女を守れるのが要の強さだけだから、強くあらねばいけなかった。
(守りたいと思えた。……これは僕の意志だ)
「もうきっとここには戻ってこれなくなるよ……?」
幼い自分が問いかけてくる。
気が付くと、膝を抱えているのは要の方だった。
きつく閉じていた目を開くと、幼い自分が耳をふさいでいてくれていた。
世界を拒絶していたのは、幼い自分ではない。自分自身だった。
「本当にもういいんだね……」
幼い要の手が離れていく。
同時に、音が聞こえ始めた。外で建物が破壊されるコンクリートの悲鳴が聞こえてくる。
「いってらっしゃい」
幼い自分が小さく手を振った。
真っ暗な世界に、星の光が差し込んでくる。
土埃の臭がした。肌に触れるコンクリートの感触が冷たい。
(行ってきます――今まで守ってくれて、ありがとう)
幼い自分に告げる。
そして、要は閉ざされた世界の中から現実の世界へと飛び出した。
――自分をヒーローと呼んでくれた少女を守るために。
紫雲 要(しうん かなめ)はヒーローとして完成した。
視界は触手の群れにうめつくされていた。
自らの姿を確認する。要は確かに、『変身』していた。
感覚が失われていく気配はない。
目も、耳も、肌も、鼻も、舌も、確かに世界を捉えていた。
現実を見ていた。
「いきますよ、莉子さん」
拳を振るう。
伸びた莉子の触手は、要の一撃で意図も簡単に弾け飛んだ。
攻撃を受けた触手達が、建物の破壊を止めて一斉に要に襲い掛かってくる。
「痛っ……」
試しに受けてみたが、莉子の攻撃は思いの外に重たかった。
「変身した時に痛みを感じるなんて……初めてかも知れない……」
目の前の強敵に、要のヒーローとしての生物的な本能が鳴いた。
強い敵との戦いを楽しもうとしている自分がいた。高揚している。
どんな理
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