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ウラギリモノの英雄譚
シュウアク――英雄譚ノ始マリ
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 移動したことで莉子の位置から要の顔面が狙えるようになった。試すとばかりに莉子は打ち込んでくる。
 想像する莉子の動き。攻撃の瞬間、莉子は防御がおろそかになる癖があった。
 要はその隙を逃さず突いた。

「そこだァ!」
 まず右手側。素早く踏み込んで、拳を打ち込んだ。
 手加減なんかする余裕はなかった。渾身(こんしん)の一撃を一撃だけ莉子に打ち込んだ。
 想像の中で莉子が倒れる。いや、倒れていてくれ。
 そう願いながら、要が変身を解く。

 視力が回復して、目の前に横たわる莉子の顔があった。
 その姿はもう、異形のそれではない。いつもの莉子の姿に戻っている。
「仮面は、どうしたんですか?」
「今、要くんが吹き飛ばしたんやん……」
「いかんなぁ……まさか、わたしの動きを全部予想されるなんて思わんかった。要くん、エスパーなん?」
「エスパーなら、こんな苦労してませんよ。怪我は、大丈夫ですか?」
「うん……。怪人の姿の時は、傷の治りが早いけん……でも、これはちょっと動けんかも」
「支えます。帰りましょう」
 要が手を差し伸べる。
 莉子が目を逸らした。
「負けた……。要くんは、強いね……」
 莉子の目尻に涙が浮かんだ。
「でも、いかん……。やっぱり帰れんよ……」
「何でですか……?」
 要は莉子に勝った。
 彼女より強いことを証明した。証明できた。
 なのに何故、彼女はまだ迷っているのだろうか。
「だってやっぱり……今の要くんじゃ、わたしに勝てんのやもん……」
 莉子が笑う。
 目尻の涙は、中途半端な希望を見て、一瞬でもそれにすがりたい。そう思って、諦めざるをえなかった。諦念の涙だ。
「わたしのために、頑張ってくれてありがとう」
 要はまだ、彼女を救えてはいなかった。
「――ちょっとだけ、本気を出すね」

 その瞬間、莉子を中心に(うごめ)く触手が四方に伸びた。
 触手は、要だけを避けて周囲にある全てに突き刺さっていた。
 触手を伸ばす莉子の姿はもう見えない。ただの触手の塊になっていた。
 建物のコンクリートが砕かれる音が幾重にも聞こえてくる。
 伸びた触手が建物を食い荒らしながら進んでいるのだ。

「何で……くそっ」
 要は慌てて屋外に飛び出した。
 要が外に出るのとほぼ同時。先程まで中で莉子と争っていた地上十一階建ての駅ビルが、音を立てて瓦解した。

「莉子さん!」
 要は莉子の安否を心配したが、杞憂(きゆう)だ。
 崩れた瓦礫(がれき)の中から、無数の触手が伸びてくる。それらは無作為な破壊を行う。駅周辺の建物を食い荒らす生き物みたいだった。

 瞬く間にビルを破壊する威力を持つ触手の群れだ。
 下手をすれば変身後の要でさえ、傷を負うかもしれない。
 勿
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