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ウラギリモノの英雄譚
シュウアク――英雄譚ノ始マリ
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ます。死ぬ必要なんてない」
「正気を保てなくなってからじゃ遅いんだ……!」
 吐き捨てるように、莉子が言う。
「それとも君は、本気のわたしを止めてくれるん?」
「止めてみせます」
「変身したら戦えなくなる君が? 話しにならんね」
 莉子の目に闘志が宿る。
 要が身構えた。
 仮面を取り出した莉子が、自らを偽るようにその仮面で表情を(おお)った。
 莉子が、『変態』する。
 彼女の体表に禍々しいオーラがまとわり付く。それらが凝固し形を成す。蠢く触手が彼女の全身を覆った。
「一応、こんなんでも女の子やから……化物のになる姿は見られたくなかったんやけど」
「配慮がたりませんでした。すいません」
 要が拳を握る。
 そして二人の戦いは、何の合図もなく始まった。

 先手を取ったのは莉子。触手を伸ばし、要の胸部に叩き込んだ。
「このっ!」
 要は受け流そうとする。だが、力の差は歴然。強大な暴力で押し込まれるようにして、触手は要の胸部に叩き込まれた。腹部が圧迫されて胃の中身が逆流してくる。ただの一撃で(ひざ)を着きそうになる要を、莉子の触手が絡めとった。
「少し場所を移そうか。この公園はお気に入りだから壊したくないんよ」
 莉子が要を抱えて跳躍(ちょうやく)する。
 三度のジャンプで、莉子の体は瓦町の駅ビルに突っ込んだ。
 だだっ広い駅ビルのエントランスに要が投げ込まれる。
 要は何とか受け身を取りながら転がったが、既に自動車に()ねられたみたいな傷を負っていた。立ち上がろうとするだけで、全身に痛みが走る。

「ほら、要くん。続きをしよう……できんの? なら、今すぐわたしを殺して」
 脅迫するように、繰り返し同じお願いをしてくる。
「莉子さんは、死にたいんですか?」
「そう言っとるやん」
「僕には……莉子さんが諦めているようにしか見えないんです。僕が弱いから……莉子さんに諦めさせてしまったようにしか見えないんです」
「関係ないよ。それは要くんの選んだ道やろ。要くんが強くなくても良いって言うなら、わたしに強制することは出来ん」
「強制したら良いじゃないですか……!」
 幼いころ、アニメや特撮の中で何度も理想のヒーローを見た。
 ヒーローは決して悪には屈しない。
 ヒーローは決して誰かを見捨てたりはしない。
 誰かに「助けて」と求められれば、どんな過酷な状況にでも身を投じる。
 それが理想のヒーローだった。
 手の届く範囲だけ、守れればいい。要はそれだけを願った。
 だったら、それがどんなに難しいことだったとしても、守らないといけない。
 こんな弱い自分でも、譲れない一線があるのだとしたら、きっとそれは今だ。
「僕をヒーローだと信じて、僕の背中に付いて来てくれたあなたに……諦めさせてしま
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