シュウアク――英雄譚ノ始マリ
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電車もバスも止まっているため、要は歩いて街まで来た。雨はもう上がっている。
街の中にはもう人っ子一人いない。皆、店のシャッターも閉めずに、避難勧告に従って緊急に避難したのだろう。
いつも賑やかな商店街がこうも静まり返っていると、世界はもう滅んでしまったのではないかとさえ思う。
商店街を進む。
要がたどり着いたのは、特別名勝 栗林公園。
莉子と初めて出会った場所だ。
彼女は去り際にここで待つと口にしていた。
勿論、入場券の販売窓口に人はいない。
要は公園の奥に進む。
公園の中は広い。いったい彼女はどこにいるのだろうか。
「要くん」
声を出して彼女を探そうか迷ったところで、声を掛けられた。
振り返ると、莉子が居た。
莉子は、先日二人で選んで買った白いワンピースに着替えていた。白い無機質なお面は外されている。覗く顔も肌色も、触手にまみれた異形の姿ではなく、普段と変わらない莉子の姿だった。
「来てくれてありがとう」
「いえ。……里里さんはどこですか?」
「心配せんでも、無事だよ。今は、要くんの家の二階で眠ってもらってる」
「何で僕の家に?」
「ふふーん、灯台下暗しってね。……それに、これから暴れるときに近くに人質がおったら、要くんが本気を出せんやろ?」
「何で戦うの前提なんですか?」
「わたしが悪い怪人やけん。ヒーローやったら、退治せんといかんよね」
笑顔で莉子がそんなことを言う。
彼女にとっても、自身が怪人であることは不可抗力だったはずだ。そんな彼女自身が、自分を『悪い怪人』と口にした。
そのことを思うと、要は無意識に唇を噛み締めていた。
「あ……もしかして、幾子さんからわたしのこと聞いたん?」
「はい」
「ああもう、お喋り……」
莉子が困ったように笑う。
「利用するようなことをしてごめんね。それでも、わたしは要くんが良かった。わたしを殺すんやったら、それは要くんが良かった……」
莉子が目を閉じる。
「わたしの無敵のヒーローに、殺して欲しかった」
「……」
「要くん、今すぐわたしを殺して」
真剣な莉子の表情。
「首を締めても良い。骨を折っても良い。道具を使ってもいいし、殴って殺してくれたって構わない。今なら、人を殺せる程度の力でも、わたしを殺すことが出来るけん」
冗談を言っているわけではない。
「出来ません」
「出来んなら、君の大切な人を傷付けることになるかもしれんよ」
「それは脅迫ですか?」
「脅迫じゃない。事実だよ」
莉子の声はどこまでも住んでいて、静かな夜の公園の空気に溶けていく。
「僕は莉子さんを止めるためにここに来ました。あなたはまだ正気を保てて
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