暁 〜小説投稿サイト〜
ウラギリモノの英雄譚
ムノウ――戦エナイ理由ト戦ワナイ理由
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 ショッピングモール内は、真ん中に大きな吹き抜けがある作りになっており、上の階から下のフロアをある程度見下ろすことができる。
 念のため(カナメ)は二階に登ると、怪人(かいじん)の出現ポイントを目指した。
 上の階であれば安全だろうという考えの人間は他にもいたらしく、館内にはまだ何人かの野次馬(やじうま)が居た。

 野次馬たちは吹き抜けの手すりを取り囲むように群れている。彼らの目線の先。一階のフロアには横たわる怪人の姿があった。
 頭は馬で胴体が男性。地面に横たわる馬頭の怪人は、馬の口からよだれを垂らしながら、まんまるな瞳でジッと野次馬たちを見つめていた。
「本物のヒーローの戦いが、見れるかもしれないぜ」
 のんきな野次馬(やじうま)がそんなことを言っている。

 結局、要の嫌な予感はただの杞憂(きゆう)だったのだろう。
 そう判断した要がその場を離れようとした。
 その時。
 ――Pi!
 下のフロアから、笛を吹くような音が鳴った。
 慌てて音のする方を振り返る。
 怪人の出現した通路の傍にある電気店の店舗に、ピンク色の服を着た五歳ぐらいの女の子が一人で立っていた。
 怪人の目がギョロリと動いて、女の子の方を見た。
「うわ……」
 異形の瞳に見つめられ、女の子が後退(あとずさ)る。
「Pi、Pi……」女の子の靴が鳴る。
 横たわっているだけだった怪人が、音に反応して頭を上げた。
「おい、あれ……」「やばくね?」

 野次馬がザワつき始める。
「靴を脱いで逃げなさい!」
 上のフロアから女の子に向けて誰かが叫んだ。
 数名の野次馬達が怪人の気を引くために物を投げる。
「早く!」
「うっ……」
 だが、女の子は動き出せない。
「ブルゥゥゥ」
 物を投げつけられて刺激されたのか、怪人が立ち上がった。
 その目は完全に女の子を見ている。
 もう一刻の猶予もなかった。
「くそっ」
 要は一階フロアへと飛び降りた。
 五点着地(ごてんちゃくち)で衝撃を殺し、即座に起き上がると怪人に背後から蹴りを見舞う。
 女の子に向けられていた怪人の注意が、要に向けられる。
「走って!」
 女の子に向かって要が叫ぶ。
 彼女の避難さえ完了すれば、『変身』して身を守るなりと、やりようは幾らでもあった。
 だが、あろうことか女の子はその場に座り込んでしまい。
「うわぁぁあああああ!」
 大声で泣き始めてしまった。
 女の子の泣き声に、怪人の注意が再び彼女に向けられる。
「くそっ……」
 ――戦うしかない。
 要は即座に判断した。

「こっち見ろ!」
 馬頭の怪人の背後からチョークスリーパーを仕掛け、そのまま首を持って怪人を投げる。
 持ち上げた怪人の重量は六十キロほどだった。抵抗も無
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ