ムノウ――戦エナイ理由ト戦ワナイ理由
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いけないんだっ。何でそうやって縮こまってんだよ……)
膝を抱えた彼が、耳を塞ごうとする。
要はその手を掴んで止めた。
(……頼むから。この一瞬だけでいい。僕に……戦わせてくれよっ)
目の前の幼い自分に、要は願うように訴えた。
だが、幼い要は言葉を返さない。これまで一度だって、彼が要に反応したことなんて無かった。
今回もいつものように、無視されるのだと思った。
しかし……。
幼い要が顔を上げ、頑なに目を閉じたままで、要を見返してくる。
今までどんなに語りかけても返事をしなかった彼が、言葉を返してきた。
「戦ったって、いいことなんて何もないよ」
小さな手で、彼が耳を塞いでしまう。
かろうじて残されていた聴覚が消えていくのを関した。
聞こえていた音が急速に遠のいていく。
すべてが消えてしまう、その寸前に。
「――要くん」
莉子の声が、聞こえた。
彼女が近くに居る。
要の目に闘志が戻ってくる。
(何とかなるかもしれない)
咄嗟に要は両腕を広げた。
「五秒だ!」
五秒後、力いっぱい腕を抱え込む。だから、何とかして怪人を腕の中に放り込んでくれ。
そう叫んだつもりだった。
「五、四……!」
カウントダウンを開始する。
聴覚まで完全に消えてしまう。
要の意図が伝わったかはわからない。
莉子の声は要の真上から聞こえてた。恐らく彼女が二階のフロアに、それも要の真上にいる。
要は彼女の行動を想像した。
この一週間で、何度も手合わせをした相手だ。
彼女の動きは鮮明に想像することが出来た。
観衆を押しのけて二階から莉子が飛び降りてくれる。怪人の頭部に蹴りを見舞う莉子だが、彼女の体重では怪人を崩し切れない。だけど、一撃で相手の体重を測った莉子は、足払いを仕掛け、要の腕の中に怪人を転がしてくる。
要の想像の中で、莉子は四秒とコンマ二で、怪人を転がしていた。
(五秒後に腕を閉じていたのじゃ、遅いっ)
要が腕を力いっぱいに閉じた。
そしてどうなったのかは、要には分からない。ただ何も感じられない暗闇の中で、要はこの腕だけは離すまいと、懸命に腕を閉じ続けた。
数えて八分が経過する。
もう、プロのヒーローは到着したのだろうか。
「一分後に手を離します」
宣言し、余裕を持って九十秒数えて腕を離した。
『変身』を解除する。
失っていた感覚が戻ってくる。視覚に眩しいぐらいの光が差し込み、アンモニア臭が鼻を突いた。
腕の中には、グッタリとうなだれた馬頭の怪人の体。怪人の胸にはぽっかりと大きな穴が空いており、そこを中心に止めどなく血が溢れ出していた。
「君、大丈夫……?」
狐のお面に顔を覗き込まれる。
ど
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