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ウラギリモノの英雄譚
サイシュウシケン――夢ノ結末
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 さらにもう一撃、拳を振り下ろす。
 先程の一撃が砕くための一撃なら、次は砕いた石を撒き散らすための一撃だった。

 そして要は『変身』を解除した。
 試験がどうなったかは分からない。

 視力が回復する。
 まず目に入ったのは、無残に叩き壊されたステージと、そのステージに足を取られて倒れている要と、試験官の槍使い。
 騒然(そうぜん)としていた観客たちは、シンと静まり返って要の方を見ていた。

「試合終了……」
 凄い睨みをきかせながら、試験官の女がそう告げた。
 結果は、両者場外による引き分けだった。



「言いましたよね? 待てって。何で止まってくれないんですか? 故意(こい)にステージを壊すとか何を考えてるんですか?」
 試験官の槍使いの女にくどくどと説教をされた後、要は控室(ひかえしつ)に戻された。
(……やり過ぎた。何であんなことしちゃったんだろう……)
 要は頭を抱える。
 しかし、控室に戻った要に送られたのは、賞賛(しょうさん)の言葉だった。
「すっげぇ……あんた何者だよ! あんなパワフルな攻撃初めて見た」
「槍も直撃してたのに効いてなかったよね?」
「なぁ、君。どこの道場通ってるんだ?」
 他の受験者達が要を取り囲み、やいのやいのと(はやし)し立てる。

 そして、すぐに合格発表が始まった。
 受験者八名中、今回の合格者は七名。結果として、かなり高い合格率となった。受験者のレベルが高かったのか、試験官の基準が緩かったのか。

 結果――要は、不合格だった。

 合格発表には、正宗(マサムネ)が立ち会ってくれた。
 試験結果を告げられ、要以外の受験者は喜びの声を上げている。
 歓声と拍手の中で、要は与えられた『不合格』という結果を握りしめていた。

「…………」
「要の試合が一番凄かったのにな。……やっぱり、会場をぶっ壊したのはまずかったのか?」
「ううん、そうじゃない。多分、途中で『変身』を解除したのがまずかったんだ」
 正宗が心配そうにこちらを見てくる。
 だが、思いの外要は冷静だった。
「大丈夫」
 正宗に告げる。

 挑戦した。
 ダメだった。
 この試験が要にとっての最後のチャンスであり、もう要はプロのヒーローになることは出来ない。
 それでも、
「やる前から諦めてしまっていた時より、ずっと気分が良いんだ」

「そういえば、緋山(ヒヤマ)さんはどこに行ったんだろうな」
 正宗が周囲を見渡す。
 要の試験後、莉子が姿を消していた。
 一緒に居た正宗いわく、気がついたら居なかったそうだ。
 結果発表の頃には帰ってくるかと思ったが、現れる気配はない。

「きっともう帰ったんだよ」
「そうかぁ?」
 要の言葉に嘘はない。
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