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ウラギリモノの英雄譚
サイシュウシケン――夢ノ結末
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、こいつのせいだった。

 ……………………。

 そして、どれだけの時間が流れたかわからない。
 試合はもう終了を告げられたのだろうか……。
 何も出来なかった。
 きっと無様に笑われているか、あきれられているだろう。
 要は哀れ自分の姿を想像して、『変身』を解除した。

 まず見えたのは、青い青い空だった。
「おい……あれ……」
「何で変身解けちゃったの……?」
 遅れて会場のザワツキが耳に入るようになる。
 試験はまだ続いていたらしい。

 そうか。自分は地面に倒れていたのか。
 それは闇雲に手を振るったところで、何も掴めないはずだ。
(終わった……)
 試合中に変身を解除するなど、戦いの最中に鎧を脱ぐようなものだ。
 要の不合格は決定しただろう。

「大丈夫? ギブアップでよろしいですか?」
 試験官がこちらに近付いてきた。
 彼女にもう要に対する警戒の色はない。
「大丈夫です……」
 諦めて上体を起こす。
 終わってしまった。

 観衆たちは既に要の試合から興味を失い、プログラムに目を落としていた。
 帰りの身支度を始めている人もいる。
 誰しもが、既に要を見ていなかった。
 だけど……。

 要の背後、控室から。
 確かに、彼女の視線を感じた。

『君を信じて、君の背中を見つめている人が、一人でもいる限りヒーローは必ず立ち上がらんといかんのよ』
 彼女の言葉がリフレインする。
 誰もが要を見ることをやめてしまった世界で。
 莉子だけが、要の背中を見つめていた。

「もっと頼りがいのあるヒーローなんて、いくらでもいただろう……何で僕なんだよ……」
「ごめん、何て言いました?」
 槍使いの女が首を傾げる。
 要が目の前の相手を見据えた。

「変身……」
 再び要を黒衣のヒーロースーツが包む。
「まだギブアップはしません。……いいですか?」
「そうで……」
 槍使いの声が聞こえなくなる。世界が黒に閉ざされる。
 何も見えない。感じることは何一つ出来ない。
 だけど、要の背中を見ている人物が一人いることだけは、分かっていた。

 わるあがきかもしれない。でも、要には立ち止まることが出来なかった。
 龍脈(りゅうみゃく)から英気(えいき)を吸い上げる。
 渾身(こんしん)のその先、限界まで身体能力を向上させ、拳を握りしめた。
 エネルギーが全身に充満している。
 勿論、こんな強力な力を人に向けては放てない。
(だったら――)

 要は、地面目掛けて拳を振り下ろした。
(想像しろ)
 要が殴ったのは、ステージを構成している白い石。
 強度は踏みつけた時に感じ取っている。
 今の一撃なら、ステージを砕けたはずだ。
「もう一発!」
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