クンレン――英雄ノ義務
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この一週間、君に付き合ったんは、君に明日の試験を受けてもらうためやったんよ」
「……僕があなたの鍛錬に付き合ったのは、母に言われたからだ。だけど、試験を受けろとは言われてない……」
くしゃりと。莉子がジャージの裾を握り潰す。
そして、莉子が顔を上げた。張り付いたような笑顔が要に向けられる。
「そっか。恩着せがましいに言うて……ごめん。でも、さ」
莉子の肩が震えている。
「絶対に合格しろなんて言わん。やけど、試験だけは受けてもらえんやろうか……?」
「それに何の意味があるんですか?」
「要くんに逃げて欲しくない、わたしの我儘だよ……」
「訳がわからないです」
本当に彼女は意味がわからない。
「お願い要くん……」
「やめて下さい」
要はこれ以上莉子の言葉を聞きたくはなかった。
「応援してくれたことには、お礼を言います……。だけど、僕はヒーローにならないことを選んだんです。諦めだってついてるんだ。これ以上、僕をかき乱さないで下さい」
胸がザワついた。
彼女の目的が、要をヒーローにすることなのは初めから分かっていた。
だけど、無理なのだ。母にも言われた通り、自分でも十分に理解している。要はヒーローにはなれない。
「無理なんだ……」
小さく、誰にも聞こえないような声で口にしていた。
「この体が治りさえすればと思ったことは何回もある。だけど、五年掛かって治せなかったんだ……。諦めなきゃいけない。諦めれたんだ。だったらもう、これ以上……」
叶わない夢は見ていたくなかった。
莉子の瞳が要を見ている。こんな姿を見て失望でもしたのだろうか。
勝手に期待したくせに。要にとっては迷惑な話だった。
「後ろを向いて」
莉子が言う。
要は言われるがままに従った。
トン、と背中に温かいものがぶつかってくる。
莉子が要の背中に手を添えて、額を押し付けていた。
「何してるんですか……?」
「ヒーローはっ……」
莉子が息を吸う音がした。
「負けてもいい、倒れたって構わん。だけど、ヒーローは立ち上がらないといかん。そうじゃないと、背中に守られていた人が何を信じて進めばいいのか分からなくなるけん……」
「何の話ですか」
「君を信じて、君の背中を見つめている人が、一人でもいる限りヒーローは必ず立ち上がらんといかんのよ」
「僕はヒーローじゃありません」
「君をヒーローにするのは、君じゃない」
背中に触れている莉子の呼吸が、振るえているのを感じた。
「君の背中に守られている人が一人でもいるなら、君はもうヒーローなんだ……」
言い聞かせるように莉子が言う。
「自分勝手なんのはわかっとる。だけど、要くん……。もうわたしは君が立ち上がってくれないと、どっちに進めばいいか……分
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