クンレン――英雄ノ義務
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と出会わなかったことに安堵の息を吐く。
駅前の商店街。まだ会社に向かうサラリーマンの群れもまばらだ。
「早めに着くけど……何してようかな……」
早足に歩いて行く要。
「遅刻、遅刻ー」
からあげ屋の角の曲がり角から、聞き覚えのあるような声が聞こえた。
「まさか……」
恐る恐る曲がり角の向こうを覗く。
案の定、そこには制服姿の莉子が居た。
「せいっ」
彼女は要の姿を捕捉するや、即座に上段の回し蹴りを打ってきた。
「……っ」
「あらぁ、ごめんなさい。わたしったら、本当ドジやねー」
蹴りをガードした要を見て、わざとらしいセリフを並べ立てながら、莉子が手に持った食パンをひとかじりした。
「ところで、食パンを咥えた女の子と曲がり角でガッシャンコってよくある演出やけど、パンを咥えたまま『遅刻遅刻ー』って言うんってかなり難易度高いと思わん?」
質問しておきながら、返事を待たずに莉子は殴りかかってきた。
「要くんー、組手するよー」
「組手ー」
組手、組手、組手……。寝ても覚めても要は莉子と殴り合った。
始めた当初は、この調子で二週間なんて身が持たないと思った。だが、三日もする頃には、要も彼女との戦いを楽しいとさえ思うとうになっていた。慣れって怖い。
「何でここまでするんですか?」
毎日のように殴りかかってくるのは、莉子にだって負担のはずだ。そう思って、聞いてみた。
「決まってるやん」
莉子はさも当然のように答える。
「要くんをヒーローにするために、わたしはここにおるんよ」
「僕はヒーローにはなれませんよ」
要は素っ気なく返したが、莉子は気にしていない様子だった。
こんなに夢中で、誰かと殴り合ったのは、久しぶりだった。
試験を翌日に控えた土曜日の朝。
いつものように玄関から莉子が殴りこんでくるかと身構えていた要のもとに、一本の電話が入った。
『やぁ、要かい? 僕だけれど、今大丈夫かな?』
電話の相手は、幾子だった。
「ああうん、どうしたの?」
『定期的によこすと約束した電話だよ。新しい師匠とは仲良くやれてるかい?』
「毎日ところかまわず殴りかかってくる熱心な師匠で感謝してるよ」
『それは仲が良さそうでなによりだ』
「どう解釈すればそうなるの?」
『短期間で分かり合うなら、言葉を交わすより拳を交わすほうが早いというのが、僕の持論だ』
「そうですか」
『とは言え……莉子君の肩に力が入ってしまうのも仕方がないことだろう。何せ、次の試験が要にとって最後のチャンスだからね』
「…………僕は、試験を受けるとは言ってないよ」
『受けないのかい?』
「受けられるわけがないだろう」
変身後に五感を失うという体質の問題だって解決していない
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