デシイリ――紫雲幾子ノ帰還
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ていいのか。
ヒーローにはならない。要はそう答えようとした。
だが、久方ぶりに母にあったせいか、心に迷いが生じる。
「僕が師匠だから遠慮しているのかい? なりたくないなら、そう言い給え」
「だけど、僕は……」
「イエスかノーで答えてもらえるかい?」
幾子が鋭く目を細める。
「はっきり言って、この業界は綺麗なばかりじゃない。殉職者だって多い。親として言わせてもらえるなら、君が別の道を選んでくれた方が、僕はずっと安心できるよ。だから、君の気持ちを教えてくれないかい?」
そして幾子は要に問うた。
「要――君はどうなりたいんだい?」
「…………」
怒られているわけでもないのに、責められているような気分だった。
きっと自分の気持に嘘を吐いている。そう思ってしまう後ろめたさがあるから、要は怒られていると感じてしまっているのだろう。
「僕は、ヒーローにはなれないよ……」
「…………」
要の返答に、幾子は頷きもせず、首を振りもせず、テーブルの上のお茶をズッと啜った。
「なれるなら……なるのかい?」
聞かれて胸がドキリとする。
「君がそうなってしまったのは、僕の身勝手のせいも在る。本当なら、君が大変な時期に、僕は君の傍に居てあげるべきだった」
「僕の体質は誰のせいでもない。医者にも行ったんだ。原因は精神的なストレスによるものだって言われた」
要がこうなってしまったのは、誰のせいでもない。
要の心が弱かった。その結果だ。
「…………」
幾子が茶を口に含む。
「やはり茶菓子が欲しいね……凄く甘い奴が」
湯のみを置く。
「要。彼女を見給え」
突然、幾子が莉子の方を向いた。
二人に見つめられた莉子が緊張して背筋を伸ばす。
「どう思う?」
「どうって?」
「君の目から見て、彼女は君より強いと思うかい?」
質問されて要は戸惑う。
莉子の技術については知っている。実戦も見たが、自分と比較するとなると分からなかった。それぐらい、要は自分がどこにいるのか分からなかった。
「……分からない」
「そうか。先刻も告げた通り、彼女は君よりも僕の教えを体得している。……要、教えてもらいなさい」
「え? それって……格闘技を彼女に習えってこと?」
「彼女なら、もしかしたら君をヒーローに出来るかもしれない」
「いや、無理だよ」
要は首を振る。
「言っただろ。僕の体質は精神的なものだって。誰かがどうこう出来るのじゃないんだ」
「分かっている。分かった上で彼女に教えてもらったらどうかと提案しているんだよ。格闘技の訓練は、ずっと続けてきたんだろう?」
「だけど、……それなら、母さんが教えてくれたって結果は変わらないじゃないか」
そう言うと、幾子は困った
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