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ウラギリモノの英雄譚
モウシコミ――道ノ始マリ
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ヒーローになりたくないのであれば、こんなただの紙切れ、捨ててしまえばええやん」
 莉子の目が、猫みたいにジッとこちらを見つめてくる。
「本当の君は、ヒーローになりたいんじゃないの?」
「僕はヒーローにはならない」
 要は即答した。
「僕はヒーローにならない。なれないんだ……。事情も知らないくせに勝手なことを言わないで下さい……」
 もうヒーローにはなれないのだ。ならば、望まない方がいい。
 ずっと前に、要が出した結論だった。
 今更こんな紙切れを渡されたからって、その決定が覆されたりはしない。

「それは、君が『変身』した時に感覚がなくなっちゃうけん?」
 それは、予想だにしなかった言葉だった。
「何で、知って……」
 要は動揺(どうよう)を隠せない。
 莉子の雰囲気が柔らかくなる。
「知っとるよ。音も、光も、匂いも、味も、肌に触れる空気の感触も。変身している時の要くんには、何もかもが分からんようになるんよね。この世界が、まるで無くなったみたいに感じちゃうんだよね」
 諭すように、優しく語りかけられた。
「そんな君がヒーローになることは出来んかもしれん……けど」
 莉子がクッと口角を釣り上げる。
 そして彼女は、まるでテレビの中のヒーローの様に誰かを勇気づける笑顔を浮かべて。
「なれないことが、なりたくない理由には、ならんよ」
 莉子が要に手を差し出す。
「わたしが君をヒーローにしてあげる」

 そう言って差し出された手を、要は呆然(ぼうぜん)と眺めていた。
「さぁ、行こう――」

 この手を握れば、もう一度要はヒーローになれるような気がした。

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