暁 〜小説投稿サイト〜
ウラギリモノの英雄譚
トラウマ――人ヲ殺シタ経験――
[2/2]

[9] 最初 [2]次話
からなければ、この鋼殻の怪人による被害は甚大な物になっていただろう。
(こうするしか無かった。僕が殺すしか無かったんだ……)
 頭では分かっているのに、心がザワついた。

 努めて冷静でいようとする脳が、要に命令する。
 後に駆けつけるであろうプロのヒーローに、この怪人の死骸を渡せば、それで終わりだ。

(いつかは自分もヒーローになる予定なんだ……。初めて怪人を殺すのが、少し早まったからって何だって言うんだ……)
 腕を引き抜く。
 支えを失った死骸が、ズルリと地面に落ちてうつ伏せに床に寝そべった。

 何で自分がそんなことをしたのかは分からない。
 ただなんとなく、要はその亡骸をひっくり返し、仰向けに横たわらせた。

 すると鋼殻の怪人の頭部を守るヘルメットの様な外郭が、ズルリと剥がれ落ちて。
 ――中に、血を吐いて白くなった少女の死に顔が見えた。
 ねっとりと絡みついていた怪人の血液が、外気に乾いて腕にまとわりついてくる。
 何故かその時、その緑色の血液が、要には真っ赤に見えた。
「っ――――――――――」
 要が覚えていられたのはそこまでだった。
 目の前が真っ暗になって、気が付くと病院のベッドの上に居た。

 後で聞いた話だと、要は悲鳴を上げてその場に気絶してしまったらしい。
 そして、要は――。
(そして、僕は……)
 初めて怪人を殺した日から――。 
「ヒーローに、なれなくなった……」

 こうして、誰よりもヒーローとしての未来を切望されていた神童は、戦いの世界から姿を消した。


[9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ