第十三話:決戦前夜、追憶
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なっちまったな」
「……レン」
苦笑いするレンを、ディアベルは直視することができなかった。
なぜならば、彼が涙を流していたから。たった一筋。だがその一滴に、どれだけの思いが籠っているのか、ディアベルには想像もつかない。
「そんな顔しないでくれ。吹っ切れた、わけではないが区切りはつけた。安心しろよディアベル。オレは、逃げ出したりなんかしない」
「……そうか」
それでも、彼が前を向くのだと決めたのならば、自分にできることは一つだけだ。
「それが聞けただけで満足だ。明日は期待してもいいんだね、英雄さん?」
「?????ハッ。そりゃこっちのセリフだ。せいぜい頼りにさせてもらうぞ、青の聖騎士殿」
友人として、彼の傍に有ることのみ。
彼が浮かべた笑みが、本物であると信じて。
† †
「……さて」
濃紺の剣を肩に担ぎ、背後へ振り向く。
場所は七十五層迷宮区最奥。鏡のように磨き上げられた黒曜石の一本道が、これまでの戦いとは一線を画することを伝えてくる。
集まったプレイヤーの表情は皆、硬い。当たり前だ。今から挑む敵の強さが想像を絶することを、全員が予感しているのだから。
そんな中で、レンは変わらず口元に不敵な笑みを浮かべていた。
ヒースクリフ、ディアベルと並んでいた場所より一歩前に出る。
「準備はできてるな。
いいか、よく聞け。この戦いに於いて敵の情報は全くと言っていい程ない。だから、序盤で如何に敵のパターンを把握できるかが鍵となる。
目を離すな。耳を塞ぐな。意識全てを敵に向けろ。お前ら全員で活路を切り開け。
それが出来得ると、オレは信じている」
赤き瞳に、決して折れぬ不屈の炎。それが、ゆっくりと、確実に周囲に伝播していく。
扉が開く。重々しい音を響かせて、熾烈な戦いへの入り口が開け放たれた。
プレイヤー達が一斉に抜刀した。
レンが前を向く。
「行くぞ?????!!」
レンを先頭に、数十人の攻略組プレイヤー達がボス部屋へ雪崩れ込む。
内部はだだっ広いドーム状をしていた。円弧を描く黒い壁が高くせり上がり、遥か頭上で湾曲して閉じている。
リーダー陣で取り決めた陣形で総数三十二人が立ち止まった直後、背後で大扉が閉まった。前層から現れたギミック。果たしてあの扉が開く頃に立っているのはプレイヤーか、否か。
沈黙が場を支配する。幾ら周囲に注意を払ってもボスは現れない。
「おい?????」
中列辺りの誰かが、耐えきれず声をあげた。その瞬間。
「上よ!!」
「上だ!」
レンとアスナの声が重なる。
全員が頭上を見上げる。
黒曜石のドーム、その天頂
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