12.新生活スタート
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「みんなね。シュウくんの楽器教室を楽しみにしてるんだよ」
姉ちゃんは、そう言いながら、ちょっとだけ背伸びして僕の頭を撫でてくれた。……姉ちゃん、今このタイミングで僕の頭を撫でるのは反則です。
「へ? なんで?」
「なんでも」
ぼくは頭を撫で終わった姉ちゃんと手を繋ぎ、腕をからませた。姉ちゃんもそんな僕にくっつき、僕達はお互いに寄り添った。こんな日が来るとは思わなかった。初詣の願いが叶うだけじゃなく、こうして寄り添える日が来るだなんて、思ってもみなかった。
「寒いね。部屋に戻ろっかシュウくん」
「うん。そうだね」
とりあえず、僕はいつ元の世界に戻ってしまうのか分からない。ひょっとすると、今この瞬間、姉ちゃんの目の前から消えてしまうかもしれない。でも、少なくともその最後の瞬間まで、この鎮守府で出来る限りのことをして行こうと決意した。
元の世界のことが心配にならないわけではない。父さんや母さん、秦野に対する郷愁の気持ちももちろんある。でも、姉ちゃんと離れたくないという気持ちも本物だ。ならば、せめてこちらの世界にいる間は、姉ちゃんと共に、この鎮守府で頑張っていこうと思った。
確かにこの世界に父さんと母さんはいない。秦野も同じ空の下にはいない。でも僕の隣には、最愛の人がいる。時々人間以外に退化するけど、いざというときは頼もしい友人もいる。ならば、この世界で覚悟を決めて生きていくのもいいかも知れない。みんなが僕を受け入れてくれるのであれば、僕もこっちの世界で生きていくことを決意してもいいのかもしれない。
僕は、恐らくは姉ちゃんが以前に辿った道と、同じ道を辿ろうとしていた。かつて姉ちゃんが僕の世界にいたとき、姉ちゃんは『もう帰れなくてもいい』『このままこの世界で生きていこう』と決意したと言っていた。きっとその時の姉ちゃんと同じ決意を自分がしようとしていることが、僕にはちょっと嬉しかった。
「姉ちゃん」
「ん? なーに?」
「ずっと隣にいてね。僕のこと、しっかり捕まえててね」
僕にこう言われた姉ちゃんは、ほんのりほっぺたを赤くしながら、お日様の笑顔を向けて少しだけ照れくさそうにこう言った。
「シュウくんも、お姉ちゃんの隣にずっといてね。あの時みたいに、お姉ちゃんの事しっかり捕まえててね」
僕に笑顔を向ける姉ちゃんの後ろには、キレイな月が輝いていた。その周囲には、キレイな星がまたたいていた。おかげで姉ちゃんは、今まで見たどの姉ちゃんよりも美しく見えた。
離さないよ。その覚悟で指輪を渡したんだから。自分の嫁の手は、絶対に離さない。
終わり。
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