12.新生活スタート
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いいんだ……どうせおれなんかゾウリムシだよ……」
ついに岸田は悲しみのあまり、ミジンコから単細胞生物にまで退化してしまった。そんな生命の神秘の話は置いておいて、提督は話を続ける。
「二人共、元の世界に戻る条件っての、覚えてるか?」
忘れるはずがない。それが原因で、僕は最後まで指輪を渡すことを悩んだのだから。多分僕は、このことで一生分悩んだだろう。
「忘れるわけがないだろう」
意外なことに、岸田もゾウリムシのくせに覚えていた。ぼくはてっきり忘れてるだろうと思ったのに……ごめんゾウリムシ。単細胞生物にも記憶力という概念があったんだね。
だが、提督からここまで言われて、僕はハッとする。姉ちゃんと会えたこと、その姉ちゃんと結ばれたことに浮かれてて、大事なことを見落としていた。
「提督、改めて言うけど、僕がここに来た理由は、姉ちゃんを助けるためだ」
「だな。お前自身そう言ってたもんな」
「そして僕は、この手で姉ちゃんを助けた。そして、元の世界に帰る条件が、本当に“目的の達成”なら、僕は今、自分の世界に戻ってなきゃいけないはずだよね」
姉ちゃんの手に、さらに力がこもった。ぼくも姉ちゃんとつないでいる手に、自然と力が入る。確かに僕は、姉ちゃんを助けるためにここに来た。それならば、僕は今頃自分の世界に戻ってなければならない。姉ちゃんを助け出し、指輪を渡して傷を癒やした段階で、自分の世界に戻ってなければならないのだ。
指輪を渡すときの僕は、逆ギレと興奮で『世界に反抗した』とか意味不明なことを考えていたが、そんなわけない。もっと現実的な理由があるはずだ。
「二人とも待てよ。俺達はあきつ丸さんの帰還に巻き込まれる形でこっちの世界に来た。てことは目的云々ってのは、ひょっとしたら関係ないかもしれないじゃないか」
ゾウリムシから多細胞生物まで急激な進化を遂げたばかりの岸田が、いっちょまえにそんなことを言う。確かにそれは言えている。元々目的が云々ってのは、渡航設備を使って世界を渡った時の話だ。僕と岸田のように、巻き込まれる形で世界を渡った場合は関係ないのかもしれないが……提督が言いたいのはどうやらそこではないらしい。
「それを探るのは大切なことだが……それ以上に大切なことは、キミたちが元の世界に帰るトリガーが何なのか、今の段階ではさっぱりわからんということだ。加えて今、我々の元には向こうの世界に渡る術がない。比叡、これがどういうことか分かるか?」
姉ちゃんの手がワナワナと震える。表情は努めて冷静さを装っているが、今の姉ちゃんは、神社や僕の家のベランダ、そしてあの戦いの時に捨て身の決断をした時の、脆い表情だ。
「シュウくんたちは……突然向こうの世界に戻ることになるかもしれない……そして戻
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