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大海原でつかまえて
11.帰還
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 遠い場所から聞こえてくるゴウンゴウンというエンジン音が次第に大きくなり、僕は意識を取り戻した。同時に光が僕のまぶたを通して見えてきて、ゆっくりとまぶたを開くと真っ青な青空が視界に飛び込んでくる。身体が水に濡れてびしょびしょだ。多少べたついているところを見ると、どうやら海水のようだ。

「気がついた?」

 まだ今一意識がハッキリしない。耳にものすごく心地いい声が聞こえる。自分が今どういう状況なのか確かめる。どうやら僕は小舟の甲板に寝かされているようだ。周囲に比べて一段高い場所を枕にしてあるようだが、その割にはものすごく心地いい感触の枕だ。

「あれ……?」
「大丈夫だよ。もう終わったから」

 また耳に心地いい声が聞こえ、同時に誰かが僕の頭を撫でてくれた。優しいけどほんの少しだけガサツな、髪がくしゃっとなる、僕がいちばん好きな頭の撫で方だ。でも少しだけ気になるのは、その手は指輪をつけているらしく、撫でるときにコツコツと硬いものが当たることだけど……

「え……終わったって……」
「シュウくんのおかげだよ」

 だいぶ意識がハッキリしてきた。と同時に声の主が誰か分かり、自分が今どういう状況なのかが把握出来た。僕はどうやら、膝枕をされているらしい。

「姉ちゃん……?」
「うん」

 膝枕をしてくれている人が、お日様のような笑顔で僕の顔を覗きこんだ。その顔は、ずっと会いたかった人の、ずっと見たかった表情だった。

「シュウくん、助けてくれてありがとう」
「怪我は? 姉ちゃんヒドい怪我してたよね?」
「大丈夫だよ。シュウくんが指輪をくれたから」

 姉ちゃんはそう言い、お日様のような笑顔で指輪をはめた左手を見せてくれた。ずっと見たかった。見る人の心をあったかくする、姉ちゃんのこのお日様のような表情に、ずっとずっと会いたかった。

「姉ちゃん久しぶり。……ずっと会いたかったぁ……」
「うん。久しぶり。お姉ちゃんも、ずっとシュウくんに会いたかった。頭を撫でてあげたかった」

お日様のような笑顔を見せる姉ちゃんの目に涙が溜まってきて、それが僕の頬の上に落ちた。落ちた涙は温かくて、でもすぐに心地いい冷たさになり、ぼくの頬を伝って落ちていく。僕は姉ちゃんの頬に触れ、親指で姉ちゃんの涙を拭ってあげた。

「指輪、ちゃんと効果があったみたいだね」
「うん」

 姉ちゃんの目からポタポタ涙がこぼれていく。姉ちゃんの涙はぼくのほっぺたに落ちてはどんどん下に流れ落ちていき、生乾きになっていた僕の顔が、姉ちゃんの涙で再び濡れていった。

「お姉様から聞いたよ。シュウくん、私に指輪を渡したら、自分が元の世界に戻っちゃうかもしれないって悩んでたんだよね」

 ぁあ……そういえば、元の世界に戻ってないね。よかった
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