5部分:第五章
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持って目を細めて笑った。猫とは思えない笑顔であった。
「じゃあ何かあったらまた言ってくれよ」
「ええ、そうするわ」
「応援するからさ」
「何を?」
「お芝居の方さ」
(おっと、今のは結構鋭かったな)
表の顔と素顔で違うことを思った。
「じゃあ頑張ってな」
「有り難う」
(さてと、次に仕掛ける時は決まったな)
トラは煙草を吸ってにこやかに笑いながら思った。
(芝居の時だな。多分それはもうすぐだ)
人の少ない部である。それならば。
(その時動くとするか)
今は煙草を吸い続けた。新聞を眺めながら。そこにある阪神の勝利の話を何度も見る。そして勝利の味を噛み締めるのであった。トラにとっては至福の時である。負ければ負ければで何かがある。阪神を応援するということはやはり浪漫なのであった。ある芸能人がそうであるようにだ。
阪神の試合を観ながら日々を過ごしているとまた沙世から話があった。
「ねえねえ聞いて」
「何だい?」
トラは今はテレビを観ていた。観ているのはやはり阪神の試合である。
「丁度今いいところなんだけれど」
「うわ、凄いわね」
沙世はテレビに映る試合を観て思わず声をあげた。
「中日ノーヒットノーラン寸前じゃない」
「どうなってるんだよ一体」
トラは憮然としていた。
「何で今年は中日ばかりに負けるんだ!?」
トラはビール缶を片手に不平を漏らす。
「おかしいじゃないか、しかも名古屋ドームで」
「だってうちの監督落合さんなんだもん」
沙世はにこやかに笑って言う。実は彼女は中日ファンで落合監督が好きなのである。その采配と笑顔がいいというのが彼女の言葉である。
「負ける筈がないわよ」
「ちぇっ」
トラは憮然として画面を観ている。
「このピッチャーも息が長いな」
「そうよね」
「まさか今になってこんな目に遭わされるとは思わなかったよ」
目の前で阪神のバッターのバットがスクリューの前に空しく空を切っていた。それがトラの目には阪神の数え切れないまでの絵になる敗北として映っていた。
「それにしても。またナゴヤドームか」
「今年はうちの守護神よ」
「こっちにとっちゃ疫病神だよ」
猫又としての誇りも魔力もそこにはなかった。
「魔物は甲子園にだけいるんじゃないんだな」
「名古屋ドームのは守護神よ」
「全く。いい加減にしてもらいたいよ」
もう九回で今にも終わりそうである。こうなっては負けは明らかであった。
「で、何があったんだい?」
トラは野球から沙世に気持ちを向けた。もっともまだ野球を観ているのだが。
「部活だけれどね」
「落合の野郎が客に来るんなら祟りに行ってやるよ」
「いや、そうじゃないから」
「そうかい」
無論これは冗談である。トラは中日は嫌いでは
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