確率の惑うは誰が為
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いる。
華琳様はじっと私の目を見返して呆れたように笑った。
返された答えは……予想だにしないモノだった。否、私と“同じ”だった。
『そうね……あのバカが参考にしている国に行ってみたい。そんな機会はきっと、永久に来ないでしょうけど』
寂しそうに消えた声は、お茶と共に飲み下されるだけ。
もしかしたら華琳様は、彼の正体に気付き始めているのかもしれない。
私がずっと考えないでいたあの答えに。
――まるで彼が、別の世界から来た人間であるかのように。
華琳様の答えを聞いて、私は身が凍る思いだった。
気付いてしまうと華琳様は彼を受け入れられない。彼を受け入れることは、華琳様の矜持に反してしまう。
天に与えられた役割を持つ操り人形に、この世界を牛耳らせる訳にはいかないから。
自分達が作った世界が、マガイモノに感じてしまうから。
人が人の手で作る平穏こそを望む覇王は、天の介入を許せない。
やっぱり華琳様と彼は似ている。だからこそ、彼は壊れてしまうほどの自責に縛られた。
ただ幸福ならいいじゃないか、と言えない。
与えられた箱庭で満足すればいい、と思えない。
道筋の決まった幸せよりも自分達で切り拓いた未来を、と願ってしまう。
二人なら、同じ事を言うだろう。
“其処にどんな不幸が待っていようと、進んだ道筋こそが自分の生きた人生。
その生きた証を誇らずして、胸を張って生きたと言えるだろうか”
先に繋ぎたいから、二人はそうやって誇りを示す。
一人は自分に正直に生きていて、一人は自分に大嘘をついて生きている。
他者にそうあれかしと願うのはどちらも同じで、許せないモノも同じで、欲しい世界もまた同じ。
だからやっぱり……私は口を噤まなければならない。
気付いてしまった彼の真実に蓋をして、二人が袂を分かつことの無いように、と。
閑話休題。
幾分歩いた。城への帰り道はもうすっかり夜に近く、人の通りはほとんど無い。安全が何処よりも充実しているとは言っても、やはり路地の暗さは少し恐ろしい。
月ちゃんは慣れているらしく、華琳様は動じないのは知っている。だから……
「……もし」
「あわっ」
突然声を掛けられて驚いたのは私だけだった。
飛び跳ねた拍子にぎゅうと華琳様に抱きつく。影に隠れながらその方を見ると……帽子付きの外套を来た人が一人居た。
顔は見えない。掛けられた声から女の人だとは思うけど、その風貌からか怖く思った。
「何かしら?」
「……」
僅かに威圧を含んだ華琳様の声が場に響く。透き通った声音に対して、その女の人は何も答えず沈黙していた……が、すっと腕を上げて掌を返し、華琳様の方に向ける。
「管輅と申す。
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