確率の惑うは誰が為
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傲慢かもしれない。傲慢に違いない。
この唇に、優しく想いを刻んで貰えたから。こんなことを願えるのだろう。
欲しいモノは私にもある。
彼女達の誰の泣き顔も見たくないなんて、浅ましい願いが。
彼の事を皆が想って、彼を救ってほしいという愚かな願いが。
フルフルと首を振った。
醜さに嫌になる。でもやっぱり、一人でも多く幸せになって欲しいから。
そうして差し出された手を握って、楽しげに揺れる二つの螺旋を追い駆けた。
†
本屋さんで新作の本を見て、店長さんのお店でおやつを食べて、服屋さんで真新しい服を見て回って、気付けばもう夕暮れ時。
少しだけ肌寒い風が頬を撫でる頃、通りを行く人の数も一人二人と減っていく。
楽しい時間は直ぐに過ぎてしまうモノで、彼と共に街を歩いている時や、忙しく仕事に集中している時と同じように時間が流れてしまった。
華琳様もどうやらこの時間が楽しかったようで、時を置く毎に上機嫌になっていた。
服屋さんに入った時なんか、私や月ちゃんの着せ替えに熱中していた程だ。
曰く、美しい華をより美しく見せなければ許せない、らしい。
私に一つ、月ちゃんに一つ、服を買ってくれた。
よく似合ってる、と褒めてくれたその表情は、一仕事を終えたような満足さが浮かんでいて、じわりと胸が暖かくなった。
その後で、下着を選んでいた時の獲物を狙うような感じは少し怖かったけど。
今日は普段見られないような華琳様の姿を沢山見た。
笑った顔も、怒った顔も、拗ねた顔も、意地悪をする時の顔も、悪戯を思い付いた時の顔も……覇王と呼ばれる彼女には似ても似つかないモノ。
そんな華琳様の表情を眺めながら、月ちゃんは優しく微笑んでいた。金と銀の二人が並んでいたその姿は、まるで仲の良い姉妹のよう。
途中で気付いた。華琳様がこんな風に息抜きすることは無かったのではないか、と。
春蘭さんや秋蘭さんは旧知の仲で従姉妹で姉妹のようだと言っても、やはり王と臣下という線引きが為されている。桂花さんにしてもそう。風ちゃんや稟ちゃんにしても、華琳様は王足らんとするだろう。
休憩にお茶を飲みながら浮かべていた表情は、焦れているような、もどかしいような、そんな顔。
どうしても仕事のことが頭から離れない性分だと分かっているから、私達は敢えて何も言わずに会話だけを紡いでいた。
華琳様が、少しでも気を休められるように。
だから、こんな質問を投げてみた。
『華琳様は行ってみたい場所とかありますか』
唐突に思い浮かんだその質問。月ちゃんと詠さんに聞いた時は、彼が大好きだったあの街に行ってみたいと言っていた。私は……誰にも言えないから内緒にして
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