蛇髪少女は黒装束の手を取った
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う思わせてくれる一言をそっと胸に納めて、頭を上げた。と、視界にある彼の表情は変わらず申し訳なさそうで。
「……すまない。今日は町内会で会合があるらしくて、お前も参加しろと父から…」
来てすぐに帰って行くのはこれが初めてではない。町長の息子という立場上、断ろうにも断れない誘いが来る事も少なくないようで、それでも時間を作って顔を出してくれる。
ザイールは申し訳なさそうに言うが、そんな風に思う必要は全くないとシュランは思う。こちらの事よりも街の事を優先すべきだと思うし、そこに居場所があるならそれを大切にしてほしい。ただでさえこんなバケモノの味方に付いた事で町民からの風当たりが強いだろうに。
「いえ、お気になさらず。こうして来て頂けるだけでも有り難いですから」
「だがな…何だか最近そういった集いに参加しろと強く言われるようになった気がするんだ。以前はそうでもなかったんだが……」
きっとそれは、バケモノたる自分から少しでも遠ざけようとする街全体の動きだろう。
思惑ははっきりと解っていて、けれど彼が気付いていないようだから「そうなんですか」とだけ返す。
「まあ、次に来る時はもう少し…お前の話が聞けるくらいには時間を取る」
「ありがとうございます。けれど、御無理はなさらないでくださいね?私の事よりも町民の皆様の事を大事にしてください」
そう言うと、ほんの一瞬ザイールの目が見開かれた―――気がした。一瞬だった事もあってはっきりと断言は出来ないが、そんな気がして首を傾げる。
が、当の本人は特に顔色や表情を変える訳でもなく鞄を閉めて、こちらに向き直った。
「…それじゃあ、そろそろ。また時間が取れたら顔を出す」
「はい、お待ちしております」
伸ばされた手が、シュランの髪を撫でる。
最初の頃は抵抗のあったその行動も、今では帰る際の恒例行事になっていた。綺麗な髪色だと言われたのを思い出す。当時は嫌味にしか聞こえなかったそれも、今では純粋に褒め言葉として受け取れる。
バケモノと、“呪われし蛇髪姫”と呼ばれるようになった原因たる髪をそっと撫でて、ザイールは社の扉を開けた。
鍵を閉めて、社を離れる。いくらか歩いて距離が出来たところで、ザイールは大きく息を吐いた。ふと思い出すのは、彼女の声で繰り返される言葉達。
何度も彼女がいる社を訪れて何度も会話をした。そして、何度喋っても彼女の優しさには驚かされる。
「…どうして」
呟いても答えはない。あるとすれば、それがシュラン・セルピエンテという少女なのだという当たり前の返事だけ。それしか、結局は他人の域を出ないザイールに用意出来る答えはない。
そんな事はもう解っていて、だけど毎回問いかける。彼女本人に問う勇気がなくて飲み込んでしまう疑問
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