蛇髪少女は黒装束の手を取った
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った…ああ、今日はこれを渡そうと思って来たんだ」
「え…そんな、頂いてばかりは悪いですから」
「そう言われると困るが…これはあった方が便利だと思うぞ?」
ここに連れて来られた頃から、シュランの周りには何もなかった。衣服はその時着ていたものだけで、あとは全部燃やされていたとザイールが教えてくれたのは出会ってすぐの頃。部屋に置いていたものも全部捨てられ、バケモノが住んでいた部屋があるからと家ごと解体したと聞いた時は驚きで何も言えなかった。
そんな状況を知る彼に所持品ゼロの現状を知られるのは当たり前といえば当たり前で、それからというもの時々食事ついでに物が送られるようになっている。ある時はカレンダーで、またある時は適当に見繕ったという本が数冊。衣服が送られてきた時はいつサイズを知ったのかと疑問に思ったが、彼が言うには「大体このくらいだろうと目分量でどうにかした」のだという。
という訳でいろいろと貰っては返すものが何もない為に貰い続けるだけのシュランからすれば、これで申し訳なさを感じない訳がないのだった。
が、そう言われたザイールは少し困ったように眉を下げて、鞄からそれを取り出す。
「これなんだが…よく考えてみるとここにないと気づいてな」
「時計…ですか?」
取り出されたのは目覚まし時計。シンプルなデザインの、黒と白のそれをきょとんと見つめるシュランに、今度はこちらが申し訳なさそうに口を開く。
「悪いんだが…俺が以前使っていたものなんだ。使わなくなって捨てるつもりでいたんだが、こんなものでもよければ貰ってもらえると有り難い」
捨てるよりはその方がいいかと思って、と締めくくって、すっと差し出す。
確かにこの色合いといいデザインといい、ザイールが好みそうなものだ。そしてシュランもそれが嫌いではない。細かく好みを並べれば異なる点もない訳ではないが、そんな我が儘が許される身でない事はもう知っている。身の回りにあって便利なものが増えるなら、好み云々にくらい目を瞑るべきだ。
少し迷ってから、差し出される時計に手を添える。そのままザイールの手が引かれて、受け取ったシュランは慣れた動作で頭を下げた。
「…有り難く頂きます。お気を使わせてしまい申し訳ありません」
「いや、気にするな。俺としても貰ってくれて助かった」
そう言ってふっと笑う。その笑い方がシュランは好きで、何気なく混ぜられた一言に唇が綻んだ。
気にするな―――それは、彼がくれた優しさ。誰からも忌み嫌われていたバケモノに、当たり前のように差し伸べて。彼からすれば特別な意味なんて持たない言葉なのだろうけれど、意図もなしに時折口にするこの言葉が、シュランを安心させてくれている。
まだ1人じゃない。誰も彼もから嫌われた訳じゃない。生きていても許してくれる誰かがいる。そ
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