蛇髪少女は黒装束の手を取った
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誰の声だって、もう壁に阻まれるだけだ。
「無駄だぞ、ザイール」
父親―――否、つい先ほどまで父親だと思っていた男が口を開く。思わず足を止めたのは一応血の繋がった親子だからなのか、それとも何か嫌な予感でもしたのか。
その答えが解らないまま、彼は告げる。
「昨日魔導士ギルドに依頼を出した。明日には魔導士様が街にいらしてあのバケモノを討伐する」
「……何?」
討伐。
その言葉の意味を理解した上で、ザイールは後ろに回した右手を開いた。掌を上に向けて、そこに藍色の光が音もなく集束する。
闇ギルドに暗殺依頼を出すなんて危ない手を使うような男でない事は息子である彼が1番知っている。だとすれば正規ギルド、ならば討伐というのは痛めつけるという意味が合うだろうか。
「諦めろ、明日にはお前がそこまでする理由がなくなるんだ。今のうちに縁を切っておけ」
不思議と怒りはなかった。邪魔なものを全て排除して真っ白になった思考に、はっきりとした黒い文字が躍る。白い背景に映えるそれを噛みしめて、ザイールは迷わずに体半分を彼等の方へ向けた。振り返るような姿に、町民達の顔色が目に見えて解るほどに明るくなる。
「……すまない、シュラン」
謝罪と共に呟いたのは彼女の名。町民達が奪い取った、今では誰もの記憶から意図的に消し去られた“呪われし蛇髪姫”の本名。彼以外の誰も呼ばなくなったその名を、慈しむような声色で呼んで。
「こんな奴等にかけてやる慈悲を、生憎俺は持ち合わせていないようだ」
藍色に輝く右手を、何の躊躇いもなく伸ばした。
「……とまあ、これで全部話したはずだ」
さらりと締め括って、先ほどから無言のシュランに目を向ける。やや俯き気味の彼女の表情は解らない。何か気に障るような事を言っただろうかと考えて、やはりバケモノだ何だと喚き散らしていた部分はカットした方がよかったかと今更ながらに後悔し始めた頃、ようやく彼女が口を開く。
「何をなさっているのですか貴方は!」
「…は?」
第一声で怒られた。突然の事に、頭を思いきり殴られたような衝撃が走る。
その怒りが「何でそんなにバケモノ扱いされなければならないのですか!」ならまだ理解出来た。そうだそうだと同意も出来たし、とにかく何かしらの対応が出来る状態にある。
が、彼女の怒りはどうやら予想の斜め上どころか真上に飛んだようで、対応しようにも頭が追い付かない。
「皆様を敵に回しただけでなく魔法まで御使いになられたなんて……!それではザイール様が悪役ではないですか!」
「え、いや…気にするな、俺は別に……」
「悪役は私1人で十分なのに…ザイール様まで皆様に悪く言われてしまうのは絶対に嫌です!なのに、なのにどうして
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