蛇髪少女は黒装束の手を取った
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いであたし達は……!」
「……アイツは、お前達のせいで苦しめられているんだが」
何を勝手に責任転嫁しているんだ馬鹿馬鹿しい、そう続けて呆れたように肩を竦める。いつまで自分達を被害者としていれば気が済むのか、なんて問いに答えが出る訳がないのは既に知っている事なのだけれど。
「だって、アイツのせいで街の周りには魔物がいるのよ!?そのせいで…!」
「じゃあ聞くが、それでどんな被害が出た?」
「…は……」
旧友の勢いが切れる。エンジン全開で飛ばしていたところでエンジンを破壊されたような、速度のあるままどうしようもなくスピンするような。
この場にいる誰もが答えに詰まる。それもそのはず、だってそれだけなのだから。
「確かに魔物は多く発見されている。だが、それで何の被害があった?作物に影響が出たか?誰かが殺されでもしたか?家が壊れた訳でも街が直接襲われた訳でもない。ただ奴等はそこにいただけで、それが偶然この街に近かっただけの話じゃないか」
目に見える被害なんて、どこにもないのだ。
ただ魔物の住処が出来やすい地域だった、魔物が暮らしやすいと思う地域だった。だからここに巣を作り、そのすぐ傍に街があったというだけの事。
魔物はこちらに手を出してこなかった。こちらが勝手に恐れて、勝手に誰かのせいにしていただけだった。この世界に生きるのは人間だけではないのに、ただ暮らしていただけなのにそれを悪意あっての事だと勝手に決定付けられて。
そしてシュランは、その勝手なサイクルに“丁度いい理由”として巻き込まれた被害者でしかない。街の付近に魔物がいるのはコイツのせいだと、楽な理由付けをする為の駒。
「マトモな理由もないくせにぎゃあぎゃあ喚くなど愚の骨頂。アイツはお前達の都合通りな理由を受ける為の人形じゃない。恥を知れ加害者、お前達はどうやっても被害者の皮を被ったニセモノ以上にはなれんぞ愚者共が」
その目に浮かぶのは軽蔑の色。けれどザイールはそれに気づかない。周囲の顔色や表情を見て、ああ今の自分は彼等から見れば悪役なんだろうなと、冷めきった思考でぼんやり思うだけだ。
立て続けに並べた嘲りが、結局は1つとして意味を持って届かないのだとは気づいている。どうせ“ザイールに言われた”という記憶だけが残って、そこに込めた意味などすぐに捨てられるのだ。言うだけ無駄だと解った上で、それでも並べたのはもう会わないと決めているからだろうか。
「ザイール君…どうして?」
頬を涙で濡らして問われるが、無視を決め込む。くるっと体を扉のほうに向けて迷わず歩き出せば、後ろから引き留めるような声が後を追いかけてくる。
けれどそれも無視。ザイールは既に覚悟を決めている。その覚悟に手をかけて揺らす事の出来る声はこの場にない。
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