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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第二十五話
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中にも空気が錘になったような重圧感を感じる。部屋にあるあらゆるガラス細工に細かな亀裂が走り、女神の持つグラスからこぼれたガラス破片が目の前に落ちてきた。

 今までは恐れてきた。この女神に見捨てられることを。寵愛を受けれなくなることを。
 だが今は違う。胸の奥で再び息を吹き返した炎がその恐れを払う。初めてこのオラリオに足を踏み入れたときの感覚が鮮明に蘇る。あの懐かしい感情の高ぶりが炎を煽る。

「私に挽回の機会(チャンス)をください」
「チャンス?」
「私は此度の任務で、己の未熟さを自覚しました。私はその未熟さ故に失敗し、一度命を落としました。しかし! 私にはまだその未熟を直す時間があります! 熱があります!」

 訴えるごとに言葉に力が篭る。従者として平坦を努めてきた口調が崩れだす。そしていつしか立場を忘れハイヒールを払い方膝立ちで女神に訴えていた。

「この私に深層で修行を積む時間をください! 必ずや貴女様の隣に立つに相応しい力を付けて帰ってきます!! どうかご一考を!!」

 女神は目の前で我を忘れて訴える従者を眺める。そして女神はただ一つ思う。

 懐かしい、と。

 初めてこの従者が私の目の前に現れたときも、こんなに一生懸命だったかしらと思い返す。
 情熱を持ち、己の可能性を信じ、ダンジョンに夢を追い求めていた少年を。

 ゆっくりと椅子から降り従者の膝に腰掛け、ドレスから絶妙な肉つきの両足がむき出しになる。はしたなくとも構わず従者の腰を脚で挟み、両手を頬に添え唇が触れてしまいそうになるまで顔を近づける。

 美そのものと謳われた女神はその美貌を見せるだけで虜にすると言う。身体に触れれば盲目的に追い求め、見つめられれば一生脳裏に焼きつき他のことを考えられなくすると言う。それで数多の下界の者をたらし込め、男神たちを思うとおりに操ってきた。

 お互いの息が掛かるほど顔を近づけ、女性の柔らかさを万遍無く押し付け、魅惑の香りを刷り込む。
 それでも従者の瞳に一片の曇りは無かった。一切揺るがぬ決意だった。

 女神はその姿勢に思わず恍惚のため息を漏らす。
 こんなにも愛らしい姿をまた見せてくれるなんて。いっそ壊してしまいたいくらい、狂おしいほど愛を掻き立ててくるなんて。

 ちゅるりと、女神は唇を舌で湿らせた。

「んふふ。今の貴方に免じて許してあげる。今すぐにでも私だけの物にして、ぐちゃぐちゃにしたいけど、我慢してあげる」

 見たら誰もが犯しつくしたくなるような蠱惑的な表情で、女神はそっと口付けをした。

「だから次も私をがっかりさせたら……、解るわね?」
「ありがとうございます」

 かくして従者はその身一つで洞窟へ身を投じるのだった。
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