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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第二十五話
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力で放った拳がなぜ破壊できないであろうか。

 答えは一つ。レイナの【水連】による防御だった。

 オッタルは拳に残った水を殴ったような不思議な感触を持て余していた。人を殴ったとは思えないほど手ごたえが無かった。物体というより流体に手を突っ込んだような感じだった。初めて感じる違和感に思わず眉を顰めるオッタルだが、己の足場を見ておよその現状を把握した。

 レイナを中心にルームの床全体に地割れが走っていたのだ。ダンジョンの床は相当厚いので下の階層が見えるほど割れていないが、その分亀裂の走る範囲が異常に広かった。ルームすべての床にくまなく走っている。

 そして、レイナの表情は依然として変わらない。空気を波打った衝撃が彼女の髪を盛大に乱し目元を隠してしまうが、間違いなくレイナはオッタルを直視していた。

 拳に残る違和感を払い落とすように、第二撃目。再び轟音。そして、更に深く抉れた床から石礫が大量に舞い、再びレイナを中心としたクレーターが出来上がる。また、レイナの残った左腕は再び紛失し、左右ともにむき出しになった血肉によりグロテスクな姿となっていた。
 
 しかし、レイナの表情は変わらない。再び襲った衝撃が彼女の髪をめくり上げ、その瞳を露にした。それに照らされたオッタルは、堪らず間合いを空ける。

「【ヒリング・パルス】」

 何気なく呟かれた魔法の言葉により、レイナの体全体を淡い緑の光が包み込み一瞬まばゆい閃光を放った。光が消えうせたときにはすでに五体満足の状態に戻っており、体のあらゆるところにこびりついていた血は嘘のように消えていた。しかし足元や床のあちこちに飛び散った血の跡だけは残っており、無傷となったレイナはひどく不自然に見えた。

 わずか二撃。されど二撃。それでオッタルはレイナの絶対的な実力を目の当たりにする。

(掌で受けた衝撃を身体の中で反響させることなく、絶妙な重心移動と全身運動により軸足から地面に逃した……というところか)

 言葉にするのは容易いが、それを実行するとなると想像もつかない。そもそもそんなことが可能な筋肉の働きは無いし、仮にあったとしてもほんの僅かなミスがあればそこに衝撃が爆発し、かえって余計深刻なダメージを負うはずだ。鎧と似た原理だが、人体一つで成し得るような体術ではない。
 一切の狂いも許されない芸当。刹那の間に繰り出された業に詰め込まれた途方も無い修行の時間。レイナ、いや、クレア・パールスという常人はそれを事も無げにやってのける。

 本当に凡人なのか? こんな芸当ができる奴が。

 戦慄と共に過ぎった疑問を一蹴する。今はそんな意味の無いことを考える余地はない。敵は今、自分を真正面に見据えているのだから。

 オッタルは思考する。
 レイナが絶対に衝撃を受け流せる
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