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第一章
猫又
片桐沙世はごく普通の女の子だ。街の中学校に通う本当に普通の女の子だ。
頭も顔も普通。背も体型も何もかも普通。平凡そのものの女の子だ。ぱっとしないと言えばぱっとしない。そういう女の子だ。
だが誰にも一つは変わったところがある。それは彼女自身にはない場合もある。彼女の場合はそうであった。その変わったものというのは。家の飼い猫にあった。
「ふうん、大変だったんだね」
これまた何の変哲もない普通の中学生の女の子の部屋。ショートボブの沙世はピンクと白のトレーナーにベージュのキュロット、白いソックスという格好だ。問題はその沙世の側にいる猫にあった。
虎縞の猫である。それ自体は普通だ。だがその猫は。何と二本足で立ち、そして人間の言葉を話しているのだ。これがどうして普通であろうか。
「けれど何とか乗り切ったんだろう?」
「大変だったのよ」
沙世はその普通でない猫と平気な顔で話をしていた。ごく自然に。
「まあ皆で何とかしたからいいけれど」
「やっぱり持つべきものは友達だってことだな」
猫はその話を聞いたうえで満足気に頷く。
「いい話だ」
「まあ終わったからそう思えるわね」
沙世もそれに頷いていた。
「トラだってそう思うでしょ?」
「勿論」
トラと呼ばれたその普通でない猫もそれに応える。
「やってる時は何時でもそうだよ」
「そうなのよねえ。終わってからほっとしてね」
沙世とトラは話を続ける。
「後で大変だったなあって思って振り返って」
「俺なんかそんな思い出一杯あるぜ」
トラは笑って述べた。
「長生きしてるからな」
尻尾を振りながら言う。見れば尻尾が二本ある。猫又だ。
「どれだけ生きてたっけ」
「二百年さ。子供の頃に嬢ちゃんの御先祖様に拾われてな」
にこにこと笑っている。その顔はやけに猫らしいが何処か人間のそれも連想させた。
「それからずっとさ」
「そうだったわよね」
「親父さんもそれこそ赤ん坊の頃から知ってるしな」
「パパもそうなんだ」
「お袋さんがはじめて家に来た時なんてな。すっごい可愛かったからな」
「それよく言うね」
沙世の母親のことである。トラは二人の馴れ初めも知っているのだ。
「嬢ちゃんそっくりだったんだぜ」
「写真見たらそうよね」
「本当にな。結婚してすぐこうして話したら驚いたの何のって」
「私が逆に猫が喋らないって聞いて驚いたわよ」
「ははは、そうだろな」
トラはまた笑った。
「普通猫って人間の言葉話さないからな」
「普通はね。あんた猫又だから」
「猫又だってちゃんとした猫だぜ」
トラは反論する。
「ちょっと魔力があって尻尾が二本あるだけでな」
「それを妖怪って言うのよ」
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