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猫又
1部分:第一章
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「人間は悲しいねえ」
 前足をまるで人間のそれの様に組んで嘆いてみせる。
「それだけで猫を妖怪呼ばわりなんだからな」
「二百年前は普通の猫だったんでしょ?」
「可愛い子猫だったさ」
「それがこんなのになっちゃって」
「やれやれ、嬢ちゃんまで」
 今度は前足をすくませる。そのまま人間の動きである。
「そんなこと言ってくれちゃって」
「けれどお話が出来るのは有り難いわ」
「そうだろ、何しろ二百年も生きてるからな」
 胸を大きくふんぞりかえらせる。
「何でも知ってるぜ。聞いてくれよ」
「阪神今度優勝するのは何時?」
「そんなのは神様に聞いてくれ」
「知らないじゃない」
「それは予言とかだろ。それにあのチームだけは何時優勝するかわかったもんじゃないよ」
「冷たいわね、ファンなのに」
「あのチームのファンってのはな、嬢ちゃん」
 何処からともなく煙草と灰皿を取り出す。前足の爪から火を出して点けるとまず吸って煙を吐き出す。
「達観が必要なんだよ。何時勝っても負けてもな。喜ばなくちゃいけねえんだよ」
「わからないわね」
「西武ファンにはわからん話さ」
「松坂君が阪神に来たらどう?」
「ピッチャーはいいんだよ、阪神は」
 ずっと阪神を見てきた猫の言葉である。その言葉には果てしない重みがあった。阪神という球団が伝統的に投手のチームであることを彼は熟知しているのだ。
「点が取れないと負けなんだ、野球は」
「ダイナマイト打線見てきたっていつも言ってるのに」
「そんなの毎日に潰されたさ」
 これも見てきたから知っているのだ。二リーグに分裂した時に選手を多量に引き抜かれているのだ。これで阪神は大きく衰退している。
「私が生まれる前の日本一は?」
「遠い夢の話さ」
 胡坐をかいて語る。
「もうな。あんな夢は見れないさ」
「これからも?」
「ああ」
 彼は語る。
「いや、見れるかな。同じ位いいのは」
「それは何?」
「嬢ちゃんに恋人が出来ることだな」
 彼は笑ってこう答えた。
「これでもその日を待ってるんだぜ」
「だってそれは」
 だが沙世はこれにはバツの悪い顔をした。
「私まだ興味ないし」
「言うねえ、もういい年頃なのに」
 トラは何処かおっさん臭い口調になっていた。どうやら阪神の話から地が出ているらしい。
「昔だったら嬢ちゃんの歳には嫁に行ってたんだぜ」
「けれど本当にいないから」
 幾ら言ってもそれは変わりはしないのだ。恋人というのは言ってすぐできるものではない。何時出来るかわからないものなのである。
「困ったもんだ。老い先短いこの身で嬢ちゃんの花嫁姿を見れねえなんて」
 煙草を右の前足にとって溜息混じりに言う。
「唯一の心残りだねえ、また」
「何よ、阪神の日本一をもう一回
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