自分→契約
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裏鳴家からさほど遠くない場所にある雑木林。未だ太陽の光が届かない鬱蒼とした空間を、一つ黒い影が動き回っていた。
目にもとまらぬ速さで駆け巡っていた影が止まる。朝日が照らし始めた林の中に立っていたのは少年―裏鳴黒だ。
(こんなものかな)
黒は心の中でそんなことを考え、タオルを手に、額と腕の汗を拭う。
黒がいる雑木林には何も手を付けられた痕跡はない。それもそのはず。黒は木の枝を伝って、林中を駆けていたのだから。
黒はたぐいまれない運動神経を、能力を手に入れた。しかし、その能力を使わなければ錆びつくのは当然。常識的に考えても、運動をしていなかった人が急に動かしても体はついて来られない。そう考えた黒は、人目のつかないこんな場所で体を動かしていた。
黒は前世では今の黒ほど体を動かせなかった。そもそも今の黒は常識人の範囲から逸脱しているため、前世と変わっていても当然である。
(…そろそろ帰るか)
行く前に準備をしていた道着に着替え道場に向かう。ついてからは竹刀で素振りを始める。いつもの朝稽古の時間まで少し時間ができたからだ。程なくして芽吹が道場に入ってくる。芽吹が道着に着替え次第、日課である手合せを開始する。
稽古が終わると、いつものように朝食を作り、学校に出かける準備を始める。その日の朝はいつもと同じ、日常的な朝だった。
そして放課後、メモに書いてある番号に電話する。出たのは、近郷創史本人だった。まさか会社の番号ではなく自分の番号を伝えてくるあたり、従業員不足なのではと感じてしまう。
何はともあれ、アポを取ったうえでフラッシュ本社に赴くこととなった。フロントには話が通っており、裏鳴黒の名前を出すと、すぐに社内を案内してくれた。
奥の方にある開発室に案内され、そこで黒はある人物と対面した。
「君が裏鳴黒君だね。待っていたよ」
「初めまして。近郷創史さん。貴重なお時間を削っていただきありがとうございます」
黒を出迎えたのは近郷創史本人だった。皺一つない長い白衣を羽織り、いかにも科学者というイメージが強い、細い線の鋭角的な輪郭をした二十代前半であろう男性だった。
部屋を見渡すと、ギアファクトが何本もの、何色ものコードに繋がって、ベッドのようなものの上に置いてあった。
コードのつながる先には、病院でよく見る機械や、パソコン。一辺三メートルはあるのではないかと思える大きな機材が置いてあった。
「早速で悪いけどそこにギアファクトをつけて寝てもらってもいいかな?説明は中に入ってからするからさ」
「はい。体を動かすのは、現実世界と同じ感覚でいいのですよね?」
「そのとおりだね。でも適性の関係で、これが使えない人もいるけどね。音が聞こえなかったり、遠近感が無くなった
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