1部分:第一章
[2/2]
[9]前 最初 [2]次話
「あの時も。凄く不安そうだったわ、これからやっていけるかなって」
「覚えていなかったわ」
佐代子はそのことを本当に覚えてはいなかった。今のことだけでとてもそこまで考えられなかったのだ。けれどお母さんは覚えていたのである。
「そんなこと」
「無理もないわ。だから佐代ちゃん小さかったから」
「御免なさい」
「謝ることはないの」
それは優しく包み込む。何処までも母親の顔と優しさで。
「悪いことじゃないし」
「そうなの」
「それにね」
お母さんはまた言う。
「人ってそうしたものなのよ」
「そうしたものって?」
佐代子は顔をあげた。お母さんの言葉に対して。
「不安や心配といつも向かい合って少しずつ先に進んでいくの」
「そうなの」
「そうよ。お母さんもそうだったし」
「お母さんも」
佐代子にとっては思いも寄らない言葉だった。佐代子にとってお母さんはとても優しくてしっかりした人だったからだ。実はお父さんよりもずっと頼りになると思っている程だ。だがお母さんはここでそのお父さんについても言うのだった。
「お父さんと結婚した時もね」
「うん」
「とても不安だったの。これから二人でやっていけるかしらって」
「何で?」
これは佐代子にはわからない言葉だった。無意識のうちに首を傾げさせる。
「結婚したのに」
「佐代ちゃんがそれをわかるのも少し先になるでしょうね」
だがお母さんはそこから先は言わないのだった。それはお母さんの気遣いだったが佐代子にはまだわからないことだった。まだわかるには佐代子は幼いからだ。
「それでもね。その時」
「何があったの?」
「お父さんが支えてくれたのよ。僕がいるから大丈夫って」
「お父さんが」
「僕でよかったら助けさせて欲しいって」
昔を見る目になっていた。その目は佐代子にもわかった。とても優しい目をしているのがとてもわかった。
[9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ