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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第五話 リメス男爵
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彼女の貴族嫌いを思って途方にくれたよ。まるで初恋のようだった。それでも思い切って身分を明かし結婚してくれと頼んだが、目を丸くして驚いておった。後で随分と文句を言われた。貴族はやっぱり信用できないと」
そう言う男爵の顔には先程までの疲れた表情は無かった。楽しげな、過去を懐かしむ表情になっている。
「彼女とは結局結婚できなかった。貴方を愛しているが結婚は出来ないと言ってな。何でも彼女の友人がやはり貴族の妻になったらしい。じゃが彼女は貴族社会になじめず、夫も彼女を十分に助けず最後は酷い結果になったと聞いた」
「酷い結果というと?」
そう俺が問うと、男爵は悲しげに答えた。
「自殺したらしい」
俺たちの間に沈黙が流れた。貴族と平民の間には厳然とした壁がある。貴族が平民を蔑む以上に平民は貴族を忌諱することもあるのだ。その壁にどれだけの人間が涙を流したのだろう。
「ヘレーネをリメス男爵家の娘にしないでよかったと思っている。もしそうしていたらエーリッヒも殺されたかもしれない」
「父は知っていたのですか」
「もちろんだ。リメス男爵家の顧問弁護士になったのもそれが有ったからだと思っていたようだ。わしは真実、彼の誠実さ、有能さを評価して顧問弁護士にしたのだが。二人で良く君の事を楽しそうに話してくれた。幸せなのが判って嬉しかったよ」
「フレイアさんのことは周りには知られなかったのですか?」
「知っていたのはゲアハルトだけだった」
俺が目でハインツに問いかけると、
「亡くなった執事殿だ」
と答えた。
「エーリッヒ。これを受け取ってくれ」
俺に差し出されたのはフェザーンに本拠を置く大銀行のカードだった。
「受け取れません。そんなので謝罪なんかして欲しくない」
「エーリッヒ!」
叱責するハインツを手を振ってなだめ、男爵は俺に話し続けた。
「違うよ、エーリッヒ。これは謝罪じゃない。お前に幸せになって貰いたいからだ。リメス男爵家の財産は全て帝国に返還される。最後に一度くらい、無駄遣いをしても良かろう」
「……ありがとうございます。大事にします」
「ああ、それとこれを受け取ってくれ」
俺は写真を受け取った。
「エーリッヒ、最後に御祖父さんと呼んでくれんか」
「はい。御祖父さん、今日は会えて嬉しかったです」
「ありがとう。もうお前に会えることはあるまい。会えてよかった。お前はわしの自慢の孫だ。ヴァルハラに行ったらコンラートとヘレーネに御祖父さんと呼んでもらえたと自慢できる」
鼻の奥がツーンとしてきた。男爵の顔が良く見えない。きっと男爵も同じだろう。男爵は俺を抱き寄せ、俺の頭に頬を押し付けた。しばらくの間、鼻をすする音だけが部屋に響いた。
俺達はリメス男爵邸を辞去した。あくまで死んだ顧問弁護士の関係者として。リ
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