第八章
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「あの時の俺達はそんなこともわからなかったんだよ」
「馬鹿だったな、本当に」
「あの時の俺達は」
「憎しみだけが強くてな」
「それをぶつけるだけで」
「他には何も見えていなくてな」
「本当に馬鹿だったな」
全員で言うのだった。
その中で仲間の一人がだ、ニコル達に問うた。
「俺達のツレが。例えナチスに協力してもな」
「ああいう風にされたらか」
「俺達がした様にな」
「丸刈りにされて服も剥ぎ取られて」
「ハーケンクロイツ書かれて」
「街を引き回されたら」
その時はというのだ。
「もうな」
「ああ、絶対に許せないな」
ニコルも言った。
「そうされたらな」
「そういうことか」
「だから俺達はあの時娼婦連中に嫌われていたんだな」
「それこそ蛇蝎みたいに」
「そういうことなんだな」
「そうだな、謝るつもりはないけれどな」
何しろまだナチスが嫌いだ、ニコルも他の面々もそのつもりはない。彼等がその時裁いた娼婦達に対して。
「けれどな」
「あの時の俺達はな」
「ただ憎かっただけか」
「正しいことをしているんじゃなくて」
「それだけなんだな」
「そうなんだな」
ニコルは俯きつつ言った、そのことがわかったからこそ。
この時からさらに歳月が経ちフランスであの戦争を知っている者は僅かになっていた、ニコルは年老いてもう曾孫といる歳になっていた。
その曾孫が小学校に入った時にだ、曾孫にこう問われた。
「ひいお祖父ちゃんは一番大切なものって何だと思うの?」
「一番大切なもの?」
「そう、人にとってね」
「そうだな、人にとって一番大切なものは」
安楽椅子に一日中座って殆ど動かない様になっている、その中での言葉だった。
「憎まないことだな」
「憎まないこと?」
「人でも何でも」
「誰かを憎んだらいけないの」
「そうしたら何も見えなくなるから」
だからだというのだ。
「憎んだらいけないんだ」
「誰もなのね」
「それが人にとって一番大事だよ」
「そうなのね」
「わしはそう思うよ」
左側に明るい日差しが差し込んできてそれが自分と曾孫を照らすのを受けながらの言葉だった、ニコルは優しい目で曾孫を見つつだった。
頭を撫でてだ、こうも言った。
「そのことだけは忘れないでくれよ」
「うん、誰も憎まないよ」
「そうしてくれ」
こう優しい目で言うのだった、だがその目には悲しいものがあり表情にもその感情が出ていた。明るい日差しの中でのことだった。
憎しみは消え 完
2015・8・17
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