第六章
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「何があってもね」
「くっ、それでか」
「そうよ、もう二度と話しかけないでね」
こう言ってニコルの前から去るのだった、そして。
ニコルはそのあと呆然となった、酔いは一気に醒めた。
それでだ、仲間達にこう言ったのだった。
「こんなこと言われたんだよ」
「おい、豚共を裁いたのにか」
「そんなこと言うのかよ」
「あの娘達には何もしていないってのに」
「フランスの裏切り者達を裁いたのにか」
「俺達は嫌われてるのか」
「そうみたいだな、何なんだよ」
ニコルは憮然として言うのだった。
「おかしいだろ」
「全くだな」
「俺達は正しいことをしたんだぞ」
「それでどうしてなんだ」
「あいつ等俺達にそう言うんだ」
「冷たい目で見るんだ」
「フランスだって全然よくならないしな」
相変わらず苦しいままだ、そのことについても言うのだった。
「どうしてなんだ」
「勝って。いいことをしたのに」
「よくならないんだ」
「そんな目で見られるんだ」
「何もよくなっていない」
「フランスは苦しいままで俺達もそんな調子だ」
それで、というのだ。
「何でそれで全然よくならない」
「おかしいだろ」
こう言い合い飲み合う、安いだけの酒を。
そうした日々が続いた、その中で。
ニコルは妻を娼婦でない女を妻に迎え子供も出来た。確かに戦争は終わりナチスの協力者だった者の存在は消えてだった。
フランスも復興した、元には戻った。
そうなった頃にだった、ニコルはふと思いたってだ、かつでナチスの協力者狩りをしていた仲間達に連絡を取ってだった。
居酒屋に集まって飲んだ、そして。
今は普通のワインを飲みつつだ、こう言った。
「美味いな」
「ああ、このワインはな」
「美味いな」
「昔飲んでた安酒よりもな」
「美味いな」
「そうだな」
「ああ、美味い」
こう言うのだった、まずは酒のことを話した。
そしてだ、そのうえでだった。
彼はあらためてだ、かつての仲間達に言った。誰もがあの時に比べて歳を取っている。皆今は家庭を持っていてその中での暮らしも感じさせる。
その彼等にだ、彼は言ったのだ。
「あの時の俺達どうだった」
「ナチスの豚共を狩っていたか」
「あの時の俺達か」
「ああ、どうだった」
こう問うたのだった。
「あの時はな」
「何かな」
一人がニコルに応えてだ、苦い顔で答えた。
「お世辞にもな」
「そうだよな」
「憎んでばかりでな」
「それに怒ってな」
「そればかりだったな」
「ナチスに負けて国半分占領されてな」
「今もナチスは嫌いさ」
このことは変わりがなかった、戦争に勝ってあの時から歳月が経っている。だがそれでも憎しみはあるかというのだ。
「憎いとまではな」
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