3部分:第三章
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第三章
「じゃあ話が早いわね」
「僕も来いってことだよね」
「そういうこと」
笑う朝香の隣ではまだ玲子が憮然としている。
「どう?それで」
「僕は別にいいけれど」
「何でそう言うのよ」
玲子は勝也が頷くのを見て憮然とした顔で言った。
「そこで。はいそうですかって」
「だって面白そうだし」
これが勝也の返答であった。言うまでもなく玲子が待っていた返答ではない。
「だから僕もって思って。皆も行くんだよね」
「ああ」
「そのつもりだけれど」
伸介も賢治も笑顔で応える。見れば笑っていないのは玲子だけであった。
「ほら。皆もだし」
「あっきれた」
玲子はそれを聞いてあらためて溜息をつくのだった。
「わざわざ食べられに行くなんて。何考えてるのよ」
「だからそうとは限らないでしょ?」
「そうだよ」
そんな彼女にまた朝香と伸介が言う。
「香水たっぷり持って行けばいいじゃない」
「それでも心配ならジュース持って行けばいいだろ」
伸介の言葉には裏があった。妖怪はジュースが大好物なのでそれが置かれていると人を追い掛けるのを止めてそのジュースを一心不乱に飲むのである。思えばこれもまた非常に奇妙な習性であった。妖怪ならではと言うべきであろうか。
「それでどうだ?香水と二本立てで」
「つまりそこまでして行きたいのね」
玲子は憮然として言う。
「要するに」
「当たり前よ」
「なあ」
朝香と賢治が頷き合って言う。
「わかってるんじゃない、あんたも」
「わかりたくてわかってるわけじゃないわよ」
玲子はむっとして述べた。嘘を言うつもりはなかった。
「こんなの。やっぱり私も?」
「だから香水持たせてあげるから」
朝香は玲子にそう言って宥める。
「それで充分じゃない」
「何なら大蒜とか十字架も持って行くか?」
「それは妖怪が違うから」
これについてはすぐに断った。吸血鬼ではないからだ。
「別にいいわよ、それはね」
「で、行くのよね」
「ええ」
憮然として答えた。断れなかった。
「断っても連れて行くんでしょ、どうせ」
「その通り」
「じゃあ行きましょう」
「出て来たら真っ先に逃げるから」
玲子は不機嫌そのものの声で呟いた。
「じゃあ香水かけたらいいじゃない」
「ねえ」
伸介は勝也のその言葉に頷いた。これもまた玲子にとっては余計な一言だった。その言葉にすぐ顔を顰めさせたからわかった。
「じゃあもらえる?夜」
「うん」
何はともあれ五人で真夜中の学校に行くことになった。校門に辿り着くと既に完全に閉められてしまっていた。五人はその前にそれぞれ私服で集まっていた。
「何だ、閉まってるじゃない」
玲子は閉じられた校門を見て少し嬉しそうな顔を見せてきた。
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