第三章
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「無愛想ね」
「無表情でね」
「殆ど喋らなくて」
「反応も薄い」
「だからっていうのね」
「何かね」
首を傾げさせつつだ、桜はさらに言った。
「あの人お店にはね」
「向いてない」
「そう言うの?」
「いえ、バーにはああした人もありだけれど」
そう思うが、というのだった。
「何かあの人の無愛想さが気になったわ」
「まあね」
「あの人いつもああなのよ」
「何時行っても無愛想で」
「それで黙々とカクテル作ってるの」
「それだけなのよ」
「そうなのね、変わったって言えば変わった人ね」
こうも言った桜だった。
「何かね」
「まあね、けれどね」
「全体としていいお店でしょ」
「そのバーテンさんの腕もいいし」
「桜も気に入ったでしょ」
「また行くわ」
これが桜の返事だった。
「いいお店ね」
「ええ、じゃあね」
「また行きましょう」
「一人で行ってもいいしね」
「彼氏と一緒にね」
「そうね、ただあのバーテンさん」
まただった、桜はあのバーテンダーのことを話した。
「あれで彼女の人とかおられるのかしら」
「どうかしらね」
「いないかもね、あの無愛想さだと」
「反応薄いし」
「それじゃあね」
「顔立ちはいい背は高いしスタイルもいいのに」
ついでに言えばだ、カクテルを造るその動きも格好いい。バー独特のダンディズムが実によく似合っている。
しかしだ、それでもというのだ。
「あれだけ無愛想だとね」
「彼女の人もね」
「いないかもね」
同僚達も桜の言葉に頷いた、そのうえで駅に入って電車に乗ってそれぞれの家に帰った。そうしてだった。
桜はそれからも何度かそのバーに行った、同僚達と行ったり一人で行ったり交際相手を連れて行ったりしてだ。だが。
バーテンダーはいつも無愛想でだ、一人で行った日の翌日にだ、桜は会社で同僚達に真剣に考える顔で言った。
「昨日またあのお店行ったけれど」
「ナイトね」
「あのバーね」
「あのバーテンさんね」
その彼のことを話すのだった。
「相変わらずだったわ」
「無愛想で」
「笑わなかったのね」
「相変わらず」
「そうだったのよ」
まさに、というのだ。
「あの人ね」
「まあね」
「そうした人だからね、あの人」
「無表情でね」
「それに無口」
「何処かのスナイパーみたいにね」
十三番目の男のことである。
「もっと歳をとったら高倉健さん?」
「幾ら何でもそこまでは格好よくないわよ」
「あの人はまた別よ」
こうしたことも話された、そして。
桜はあらためてだ、同僚達に話した。休憩時間なのでお菓子とお茶を楽しみながら。
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